厩舎であれ、馬主であれ、騎手であれ。
競走馬の関係者は、当該馬の力量もコンディションも、十分すぎるほどわきまえている。
今度のレースで勝負になりそうか、勝ち目がないか。絶対の自信を持って走らせられるか。
もちろん取材を受ければ、コメントはする。
それでも全部をあらいざらい、ぶちまけるわけではない。
本音と建前が、違うこともある。
でもその「真相」が、いつまでも胸の奥にしまわれたままかというと、もちろんそんなことはない。
どこからともなく、漏れ聞こえる。一部のサークルを、裏情報として駆け巡る。
それが馬券の的中につながって、結構あくどく儲けることができるのだ。
では部外者は、そんなおいしい情報には、けっして接することができないのか?
必ずし、もそうではない。
直接教わることはできなくても、状況をよく観察していれば、おのずと見えてくるものがあるものだ。
*
2022年、第66回大阪杯。(レース)
当時、現役最強馬と目されていた、エフフォーリアが出走した。(全成績)
デビュー以来、それまで7戦6勝。
唯一2着だったダービーも、勝ち馬と同タイムであり、実質負け知らずと言ってもよかった。
古馬に交って天皇賞(秋)、有馬記念も制したのだから、3歳でありながら、前年の年度代表馬に選ばれたのも当然だった。
翌春の大阪杯。春初戦とはいえ、当たり前のように1番人気(単勝1.5倍)に推された。
何時の時点かは忘れたが、前売りのオッズでは、1.9倍となっていたように記憶している。
その数字を見て、「こんなに強い馬なのに、これだけオッズが付くなんて、ずいぶんおいしいな」と思った人がいたとしたら、馬券的には負け組である。
正しい理解は、その逆だ。
「こんなにオッズが付くなんて、何かあやしいな」と、危険を察知しなければならない。
長く競馬をやっていればわかることだが、これだけの実績の馬がこの相手関係なら、オッズは1.1倍とか1.2倍になるのが普通である。
それが1.9倍というのは、何か素人にはわからない、不安材料があるのだ。その情報が大口購入者の間に広まって、本来のオッズを歪めている。
案の定、ファンの悲鳴が飛び交う中、エフフォーリアは9着に惨敗した。
レース後陣営からは、さもアクシデントがあったかのようなコメントが出たが、あくまでも建前である。最初からあぶないと思ってました、なんて口が裂けても言えないから。
その後の2回のレースでも惨敗が続いたことを考えれば、敗因はけっしてその場だけの、「偶然」なんかではないことは明らかだ。
それが何だかはわからないが、一部の人間だけが知っている、マイナス点があったのだ。
裏情報の威力とは、かくもすさまじい。
それでもオッズをよく観察することで、我われもまたそんなあやしい動きを、ある程度は見抜くことができた。
断トツ人気馬を外して、馬券でもうけられればプロだが、そうでなくても損失を回避することはできたはずだ。
*
その逆のケースは、枚挙にいとまがない。
つまりは、オッズが異常に低い。そんなに売れるはずのない馬が、けっこうな人気になっている。
まあ5つレースがあれば、1つくらいは、そんな不可思議な現象が出現する。
その場合の解釈は、もはやおわかりだろう。
ここでもまた、秘密の材料がある。関係者しか知らない、裏情報が流れている。
その馬は本当は、世間一般が思っている以上に、勝つ確率が高いのだ。
情報を握った「その筋の人間」が、自分たちだけおいしい思いをしようと、大口で馬券を買い占めている。そのことが馬のオッズを、不自然に押し下げているのだ。
そんな異常オッズを見つけ出し、馬券のプロたちの投票行動に、乗っかかることができれば。素人のファンも、今よりずっと回収率を上げることができる。
オッズが下がっていると言っても、そういう馬はたいてい3、4番人気くらいまでだ。だから中穴を当てて鼻高々で、競馬を楽しむことができる。
でも異常投票と判断するためには、本来の適正オッズを、知らなくてはいけないのでは?
その通りである。でも結構簡便な、判定方法もある。
たとえば競馬新聞に載っている、各馬の過去の成績表(馬柱)を見比べる。
出走馬同士の、過去の対戦状況もわかる。
たとえば前走で、3頭の馬が一緒に走っていたとしよう。そのときの着順が上の馬が、人気になるのが順当なはずだ。
ところが着順が一番下の馬が、なぜか上の2頭より売れているとしたら、それが異常投票である。
もっともその馬が、ミーハー人気を集めていたり。人気を押し上げるような記事が、もうマスコミに出回っているような場合は、別である。
すでにみんなが知っている情報では、おいしい思いはできない。
あくまで内輪だけが握っている、秘密のネタを見つけ出すのだ。
以上が誰でもすぐにできる、昔ながらの、アナログな手法だ。
もっとも最近では、ハイテクを駆使してもっと素早く、過剰投票を見つけることもできるようだ。
このサイトに紹介されているやり方(時系列でオッズの変化を追う)なんかも、けっこう理にかなっていると思うよ。
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<追記>
直近で言えば、昨年の有馬記念(注)なんかもそうだ。
二番人気のドウデュースの単勝オッズ(5.2倍)が、あまりにも不自然であった。
ダービー馬とは言え、その後の成績(注)を見れば、一般人にはとても買えない。
たとえば五番人気タスティエーラ(7.1倍)の成績(注)と比べて、こちらが上位に推されているのは、いかにも怪しいと思われた。
蓋を開けてみれば、案の定ドウデュースの優勝である。
オッズの裏に目を配っている者であれば、十分に結果は予見できた。少なくとも連軸はドウデュースで堅い、というのは火を見るより明らかだったのである。
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