新手の詐欺かもしれないよ

 先日、ピンポンが鳴ったので玄関に出てみると、70半ばくらいの男の人が立っていた。
 人のよさそうな、というより気の弱そうな、いかにも風采の上がらない高齢者である。
 用向きを聞くと、張りのない声で、
「リフォームをやっている者なんですけれど――」
 と言う。

 何のことはない、売り込み(セールス)じゃないか、ともちろんすぐに追い返したが、その後になってふと考えた。
 ひょっとして今のは、リフォーム詐欺だったんじゃないか?
 リフォーム詐欺はご存じだろう。主に独居老人宅を訪問して、必要もない家の修理を勝手にやっては、目の玉の飛び出るような料金を請求する。抗議でもしようものなら、急に居直って怖いことを言ってすごむ、例のあれである。
 最近はその手口もすっかり有名になってしまって、警戒されて引っかかる者も少なくなった。それでさっきみたいな老人を手先に使って、カモを開拓しているのかもしれない。

 確かに相手が、頼りなさげな高齢者だったりすると、ついついこちらも警戒を解いてしまう。
 おそろしい詐欺師のイメージからはほど遠い、よぼよぼの老人がそんな大それた悪事に手を染めようとは、とても思えないからだ。
 若い主婦なら、御年寄に邪険にしてはいけないと、同情して話を聞いてあげる。
 逆に同世代の老人なら、変にウマが合って話し込んでしまい、まんまと取り込まれてしまうかもしれない。

 外見の印象とは、げにおそろしいものだ。
 人間心理の盲点を突いている。成功間違えなしの、実に巧妙な戦術である。
 訪問詐欺だけではない。電話を使った詐欺にしたって、若い「掛け子」はもう当たり前すぎて、きっと見抜かれやすいだろう。
 逆にどう見ても高齢者の、丁重な声調でやられたら、ころりと引っかかるにちがいない。老人を一味に引き込んで、ダシに使う、新手の詐欺の手口である。

 いや、もちろんさっきの玄関の老人は、詐欺師ではなかったかもしれない。ただ本当に気の弱い、人の好いリフォーム業者だったのかもしれない。
 もしそうだとしたら、ひょっとして誰もまだ、この詐欺の手法に気が付いていないのか? 文字通り、オレの新発明なのか?
 だとしたら、まだ手垢の付いていないやり口だけに、みんな片っ端から引っかかる。効果は絶大だろう。

 だとしたら誰かオレの代わりに、この新手の手口を使って、大儲けをしてきてくれないか?
 そうしてアイディア料だけでも、いくらか分けてもらえると、ずいぶんとありがたいんだが。……

     * 

 だいぶ前だが、駅前で18歳前後のアジア系の女の子が数名、たとたどしい日本語で通行人に声をかけていた。
――スミマセン……
 元来他人とかかわりたくないタイプなので、距離をおいて通り過ぎてしまった。どんなやり取りをしているかまでは、聞き取れないままだ。
 だが今思えば、あれもひょっとしたら何かの、詐欺だったんじゃないかな?

 最近はずいぶん変わってきたが、島国ということもあって、もともと日本人は外国人の扱いに不慣れである。
 思い切り異質の存在を目の前にして、その反応は2つの極端にわかれる。
 一つは初めから完全にシャットアウトして、まったく相手にしない。近づきさえしない、というものだ。
 だがもう一つは逆に、ここは日本人の代表として、異国からいらした方たちに悪い印象を抱かれてはいけない。そう考えて、必要以上に友好的に、ときには最大限のおもてなしをしてしまう。

 駅前で声を掛ければ、その半分は前者で、思い切り冷ややかに無視される。だが後者の半分は、相手が純真そうな若い女の子だということもあって、親身になって話を聞いてくれるだろう。
 外人だって日本人と同じように、いい人もいれば悪い人もいる。そんな当たり前のことを忘れて、ついつい過度に振れてしまう。
 つまりは詐欺師にとっては、絶好のカモとなるわけだ。

 いやもちろん、そうではないかもしれない。純真そうに見えた彼女たちは、実は本当に純真で、どこかの留学生か何かが、アンケートでも取っていただけなのかもしれない。
 もしそうだとしたら、ひょっとしてまだ誰も、この詐欺の手法には気が付いていないのか。実践している悪いやつらは、まだいないのか。
 外国人の若い女の子を手先に使うという、この効果絶大の手口は、ここでもまたオレの新発明なのか? 
 だとしたら、やっぱりこれも特許料がほしいんだけど、誰かオレの代わりに――

     *

 甘ェんだよ、おめェは。――

 と、頭をはたかれそうな、不適切投稿である。

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