先日、玄関口に訪問者があった。
作業衣を着た30代くらいの男性で、何でも明日○○丁目でビルの、吹きつけ工事をやると言う。
「だいぶここから距離はありますけど、風向きによっては薬剤の臭いがするかもしれませんので、その場合は大変申し訳ございません……」
300メートルは離れているわが家まであいさつに来るとは、ずいぶん丁寧な業者だと思っていると、帰り際にいきなりこう切り出してきた。
「ちなみに先ほど、ここに来るときに気が付いたんですけど、お宅の屋根の道路わきの瓦が一つ大きくずれますね。ご承知ですか?」
*
リフォーム詐欺というものがあるのは、ご存じだろう。
この場合で言うと、瓦がずれていると指摘されて驚く家人に、
「瓦が落ちて、もし通行人に当たったりすると危ないですよ」と、さらに脅しをかける。
そのあとで、ダメ押しで、
「もしよろしければ、ついでにウチの方で、修理をお手伝いしましょうか?」
と話を持ちかけるわけだ。
瓦がずれている、というのがもし嘘なら、もちろん詐欺に当たる。
実際にずれていたとしても、修理工事をお願いしたあとに、高額の料金を吹っ掛けることもある。
あるいは単価自体は普通でも、こちらが屋根に上れないのを言いことに、後になってからあそこもおかしい、あちらも修理が必要だと、工事代金をふくらませていく。
*
そういう詐欺の手口も、もうだいぶ使い古された。あまりにも有名になりすぎて、最近ではあまり引っかかる人間もいない。
そこで前述のような、新しいスタイルを取ったわけだ。
怪しまれないように、工事のあいさつ回りに来た業者の体で近づく。そうして信用させてから、「あくまでもついでにですが……」という口調で、ご親切にも瓦の不具合の件を忠告申し上げるのだ。
なるほどこんなやり方を取れば、カモになる者もいるかもしれない。毎度のことながら、よく考えたものだと感心する。
詐欺の手口も、こうして日々進化していく。
これらもそれに合わせて学習していかないと 思わぬ痛い目にあわされるかもれしない。
そろそろ判断力が衰えかけている、オレたち高齢者の場合は特にね(笑)
*
さて、賢明にも詐欺に気が付いたオレは、一体どう対処したのかって?
そこからはオレの真骨頂だ。
「瓦が落ちて通行人に当たりでもしたら大変ですよ」と声をひそめる相手に、とぼけてこう言い返してやった。
――別に、いいんじゃない?
むしろ頭にでも命中して、死んじゃえばおもしろいのにね。
ちょうど一度でいいから、人を殺してみたいと思っていたところなんだ。……
それを聞いた詐欺師は、ここの高齢者はフツーとは違う。こいつはヤバいやつだから、かかわり合いになってはいけない、と気が付いたらしく、あわててそそくさと退散していった(笑)――
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