地球がリンゴに落ちる(1)

 思考法についての、アドバイスが一つある。
 もっとも極端な場合を想定することで、物事の本質が見えてくる、というものだ。  

 日常の、普通の事例の場合、あまりにも雑多な要素が絡み合っていて、純粋な論理の骨組みが見えてこない。
 そんな不純物を排除するためにも、できるかぎり非日常的な、ときには不条理なまでにぶっ飛んだ状況を例に取ってみるのだ。  

 論理にたけるためには、これがきわめて有効な手段である。

     *

 リンゴが地球に落ちる。「地球はずっと同じところに止まっていて、リンゴが地球の引力に引かれて落ちていく」(a)と言う。

 さて一つ、思考実験をやってみよう。
 リンゴのサイズをだんだん大きくしてみよう。2倍、4倍、8倍……それでもリンゴは、地球に落ち続ける? 
 ではその、もっとも極端な場合、リンゴが地球と同じサイズ(質量)まで、大きくなったとしたらどうだろう? 
 まさかそれでもまだ、地球が止まっていてリンゴだけが地球に落ちる、とは思わなないだろう。「両者が互いの引力で引きあって動き、二つの中間のどこかでぶつかり合う」(b)。今の場合は、ちょうど真ん中が衝突点だろう。

 (a)だったものが(b)になる。リンゴが地球と、同じサイズになったからか? 質量が等しくなった瞬間に、一気に切り替わったのか?
 そんなはずはない。だとしたら、一体どの時点から、リンゴが何倍になった段階で、(a)が(b)に変わるのか?
 答えられるはずもない。だって初めから、事実は(b)なのだから。

 初めの小さな、普通サイズのリンゴでも。リンゴと地球は互いに・・・引き合う。
 リンゴは地球に引かれて近づき、地球もリンゴに引かれて近づき、両者の間のどこかの地点でぶつかり合う――ただその質量の差に応じて、今の場合は衝突点がきわめて地球の近くになるので、地球は止まっていると錯覚されるのだ。

 (注 あくまでも地球とリンゴの、一対一の関係で考えた場合。実際にはそれ以外の様々な事象がからむので、もっと事態は複雑になる。)

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(話は次回に続く)

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