花粉症で、悩んでいる人多いよね。
かく言う私もこの季節は、抗アレルギー薬のお世話になっても、クシャミ鼻水が止まらない。
マスクをしないで外を歩いている人を見ると、つくずくうらやましいな、と思う。
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花粉症は現代病である。遠い昔の日本には、そんなものは影も形もなかった。
戦後日本が復興し、高度経済成長を迎えるころ。旺盛な住宅需要をまかなうため、建材として大量のスギが植林された。それが直接の原因だと言われている。
だかしかし、そればかりではない。もっと重大な原因は、私たちの腸内環境の変化だという。
たとえば食生活が一変し、食物繊維なども、あまり摂られなくなった。その結果、本来腸内にいなければならない大切な細菌の数が、激減してしまった。
きわめつけは寄生虫だ。戦後すぐの調査では、日本人の8割近くが、何らかの「寄生虫持ち」だった(主にカイチュウ)。だがその後の駆除対策や、衛生志向の高まりのために、その数字はほぼゼロとなった。
菌も虫もいないのだから、いいことづくめに思えるかもしれないが、そうではない。
少なくとも、免疫機能の正常な働きという点では、それらは見えないところで人間に益していた。逆にそれらの不在が、現在の日本人の、アレルギー蔓延の背景になっているというのだ。
正確なメカニズムまでは特定されていないが、両者の因果関係は、すでに実験的に確かめられている。
きわめて乱暴に言ってしまえば、こういうことだ。
花粉症はもちろん、異物に対する体の免疫反応である。昔の人間は細菌やら寄生虫やらの、「大物」の異物と戦って、免疫の機能がすっかり「鍛えられて」いた。
だから花粉のごとき、小物の異物には負けない。 というより、初めから相手にもしないから、鼻水も出ないというわけだ。
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そのあたりの事情は、以下の書物に詳しい。
『寄生虫なき病』(モイセズ・ベラスケス=マノフ )
『笑うカイチュウ』 (藤田紘一郎)
特に後者の著者である藤田氏は、テレビの番組でそそのかされて、何とサナダムシの卵を飲んで見せた。自らの仮説が正しいことを、実証するためにである。
するとサナダムシは、氏の腸内ですくすくと、健やかに(笑)育った。その効果はてきめんで、実際重症だった氏の花粉症はあっさり完治し、感染症とも無縁な体になったという。
サナダムシ療法のおかげで、実に超人的に強靭な、免疫を獲得することができたというわけだ。
サナダムシは、もちろんご存じたろう。
「日本海裂頭条虫」の別名である。サケやマスを生食すると、そこに寄生していた幼生が人間の体内に入り込んで成長する。成体は大きいものでは10メートルにもなる、グロテスクなモンスターである。
見た目はともかく、人間から栄養をいただくだけで、特に健康に害があるわけでもない。何か症状が、出るわけでもないという。
だからこそサナダムシ療法が成り立つわけだが、花粉症を選ぶかサナダムシを選ぶかと問われて、迷わず後者を選ぶ人には、個人的に敬意を表したい。
この薄気味悪い写真を見た後では、自分などにはとっても、そんな真似はできない。
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花粉症と縁のない人をみると、つくずくうらやましい――だが最近は、こう考えることにしている。
この季節に、あそこでマスクもしないで歩いている人たちは。きっとおなかの中におどろおどろしい、サナダムシを飼っているんだ。
だからこそ花粉症と、無縁でいられるだけなのだ。
そんなふうに想像すると、他人をねたむいやらしい気持ちは、たちまち消え失せる。自分はこれで、十分幸せなんだと感じる。
そんなまるで、聖者のような心の平穏が、にわかに訪れるのである。――
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