医学部入試差別問題の見えない背景(1)

 今さら蒸し返すようだけど、2018年ごろから、私大医学部の入試差別が問題となった。
 女子および2浪以上の男子に対して、きわめて不利な合格判定が行われていた件だ。

 女子差別の方はマスコミでもずいぶん取り上げられて、当然非難轟々であったが、浪人の方はあまり注目を集めなかったようだ。
 きっとあんまり、ピンとこなかったんじゃないかな。何で浪人生がいけないのか、いまいち理由もわからないし。

 かつて受験指導にかかわった者として、ちょっとその辺の事情を解説してみたい。

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 確かに、これが一般の大学だと、浪人差別など存在しようもない。
 学問を修めたいという、学生の希望がある。それに応えるために、学問の場を提供する機関が大学である。少なくとも建前上は、そういうことになっている。
 だとしたら、何年も浪人してまで入学したがる学生は、その分だけ向学心も強いわけだから、むしろ歓迎されるべきものだろう。――

 だがしかし、医大の場合は、少し事情がちがう。
 とりわけ私立医大の場合だが、大学はただの教育機関でも、研究機関でもない。
 少なくとも実態上は、それは何よりも医師養成所なのだ。もっとぶっちゃけて言ってしまえば、卒業後の国試(医師国家試験)に合格するための、予備校でしかない。 

 学生たちも、ただそれだけを期待して入学してくる。
 大学もただそれだけを念頭に、運営を行う。何しろ国試の合格率は大学ごとに公表されていて、その数字が悪ければ、たちまち評判が落ちる。学生が集まらなくなって、経営が立ち行かなくなるわけだから。
 いきおい入試での選抜も、「国試に受かる可能性の高い素材を探す」ことが、主眼となるのだ。

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 さてここに、入試での総得点が300点の現役生と、5年浪人して310点の生徒がいたとする(医学部受験では、5浪もけっして珍しいケースではない)。
 一般の学部なら、もちろん浪人生の方が選ばれる。たとえ10点でも、得点が上回っているのだから当然だ。

 だが私立医大の場合は、考え方が違う。
 どちらの方が、医者になる資格があるだろう。どちらの方が、国試に受かる可能性が高いだろう――そういう基準で捉えると、5年余分に受験勉強をしておきながら、現役生と大差ない点しか取れていない浪人生の、学習能力に疑問符が付いてしまうわけだ。
 こちらの生徒は、6年後の国試合格はまず無理だろう。またそこでも、ふたたび5年くらい浪人して、35歳くらいで医者になる? だがそれでは、大学の国試合格率を、大いに毀損することになる。

 5浪の原因は、必ずしも学習能力ばかりではないかもしれない。例の「やればできるのだが、遊んでしまって」というパターンだ。
 だがもちろん、大学にとってはこちらの方が、さらにたちが悪い。
 能力不足なら、本人がつまずくだけの話だ。だけど遊興癖は伝染して、他の学生の足を引っ張る。
年長の学生がうぶな学生を引き連れて、なんていうのは、いくらでも見られる風景だろう。
 そんな最悪の事態を避けるためにも、多浪生は敬遠される。年齢を考慮した、巧妙な得点調整によって、こっそりはじかれる。
 大学にとっては害悪でしかないのだから、そうしてお引き取りを願うしかないのだ。 

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(話は次回に続く)

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