げにうるわしき社宅の性事情

「社宅」と「寮」は、厳密な区別はない。
 世間一般では単身者向けが社員寮で、既婚世帯向けが社員住宅、と使い分けているようだ。

 社宅にも「借り上げ」と、「社有」がある。
 借り上げは、あちこちのマンションの部屋を会社が借りて、社員世帯にばらばらにあてがっていく。
 社有の場合は、会社所有の建物に、対象の世帯を全部集めて住まわせる。いわゆる社員寮の、既婚世帯版と言っていい。

 公務員宿舎(官舎)なんていうのも、たいていこの形態である。
 当然、同じ一つの建物内に、同じ会社の夫婦ばかりが住むことになる。

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 職場が共通だから、生活パターンもほぼ一緒である。
 アレを「いたす」日時だって、だいたい似たようなものになるのだ。
 そろそろ隣のお宅も始めているだろうと、薄々気配を感じることもできる。
 すべてが結構に、筒抜けなのである。

 何十組もの夫婦が、同じ建物の中で、一斉に取り掛かる。
 壁で仕切られているから、互いに姿は見えないが、想像をめぐらしてみればなかなかに壮観である。

 別に粗悪な造りではなくても、防音壁まではないから、耳を澄ませばときどき「声」が漏れ聞こえてくる。

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 隣のお宅の奥さんは、社宅でも有名な、清楚系の美人である。
 日時が来ると、その奥さんの声が聞こえてくる。聞き耳を立てれば、言葉の意味もわからないではない。

「おっきい……」――むせび泣くようにあえぐのだから、何が大きいのかは、言わずと知れている。
 そうなれば、隣の痴態に煽られるように、こちらの夫婦も「開始する」ことになる。 
 あのおとなしそうな、かわいらしい奥さんが――と想像して、興奮した亭主は屹立する。
 そんな亭主を自分の中に感じながら、嫁の方も隣の旦那はさぞかしどれだけ、と思いめぐらしている。

 お互い、目の前の相手がネタではない。
 不謹慎と言えばその通りだが、まあマンネリ打破のための刺激だ。媚薬みたいなもの、と割り切っている。

     *

 翌日の朝、隣の奥さんは必ず、ベランダに布団を干す。
 午前中はずっと、窓を開け放って換気をしている。
 さぞ臭いがこもるくらい、「おっきい」のに励んだんだろうな、と察しがつく。

 ベランダ越しに顔が合うと、奥さんは何事もなかったように、清純派のアイドルみたいな笑顔であいさつをする。
 それを見たこっちの亭主が、また屹立する。
 気づいた嫁は、「めっと」亭主を睨みつけながら、お仕置きとして股間をパチンと指ではじいてやる。

 自分だって昨夜は、隣の旦那で濡らしていたわけだから、お互い様なのに。――何ともほほえましい、社宅のいつもの朝の光景である。……

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