詐欺の手口にご用心(2)

 (話は前回から続く)

 さあ、それでは応用問題です。

 その昔、合格保証制度を謳う進学塾 があった。あらかじめ届け出た志望校に不合格だった場合、それまで納めた授業料を全額返金する、というのである。

 このビジネスは一体、どういうからくりなのでしょう?

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 もちろんこれもまた、例の鉄則である。
 商売は常に利益を上げる必要はない。トータルでプラスとなりさえすれば、立派に成功したビジネスモデルなのだ。――

 具体例で見てみよう。制度を導入する前の生徒数が、30人だったととする。もちろん全員が授業料を払っている。
 合格保証制度を謳ったあとは、この塾はきっと指導に自信があるのだろうと、生徒は100人に急増した。
 その生徒のたちのたとえ半分が受験で落ちて、授業料を返金したとしても、残りの50人の合格者からお金が取れるなら、差し引き20人分の増収になるわけだ。

 もちろんも、必要経費の問題はある。生徒が増えた分だけ教室を増やすとか、講師が余分に必要とかいうのなら、話は違ってくる。だが大教室に、詰め込めるだけ詰め込めるなら、何も問題はない。 
 不合格の生徒に返金したって、別に慰謝料まで払うわけではないから、持ち出しはない。プラスゼロというだけだ。合格した生徒から、もらった授業料の分だけ黒字が出るのだから、生徒の総数が増えさえすれば、戦略は成功なのだ。
 まあ前章の「外れた時には予想料はいただかない」が、「不合格なら授業料は返金」に、変わっただけと考えてもいいだろう。 

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 そればかりではない。この塾はさらに、考えた作戦を練っていた。
 一般向けの広告は一切打たず、いくつかの有名進学校の生徒だけに、ダイレクトメールを送ったのだ。

 それはただ、宣伝費の節約になるばかりではない。
 ぶっちゃけた話、その手の学校の生徒は、地頭じあたまがいいものだから、放っておいても受かるのだ。何もしなくても、別に塾なんか通わなくても、勝手に合格していく。――もちろん、塾に通っても・・・・。どんな塾に通ったとしても。めったに試験に、落ちたりはしない。
 だからもし彼らが、何らかの勘違いによって、この塾を選んでくれたなら。そもそも落ちはしないのだから、返金というような事態は生じようもない。丸儲けなのだ。

 そのうえ彼らの場合は、ただの合格ではない。ちょっと自慢になるような、有名大学に次々と受かっていき、それがそのまま塾の宣伝材料となる。
 今度は合格実績に惹かれて、生徒が集まるようになるから、もう返金制度などなくしてしまっても、経営は安泰なのだ。

 詐欺の定石を応用した、ずいぶんうまいビジネスモデルだと思ったものだが、その割にはこの塾はあまりはやらずに消えてしまった。
 きっとあまりにも授業がひどいので、せっかく集めた生徒たちもすぐにあきれて、やめていってしまったのだろうな。
 悪いことは、できないものである。

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 だいぶ毛色は違うが、同じ受験つながりで言えば、こんな手口もあった。
 全国模試も手がけるような、大手予備校の場合である。
 自社主催の模擬試験の、成績優秀者上位一割程度を、予備校の特待生とするのである。

 そのうえそれは、生徒本人の申し込みを待つのではない。
 今後はすべての講座と模試が無料で受けられます、という書面とともに学生証を郵送で送り付け、勝手に生徒登録するのである。
 ずいぶん強引なやり方だが、別に一切お金がかかるわけではないので、いちいち抗議する生徒はいない。中にはこれはいい機会だと、実際に講座を受講する生徒もいるだろう。

 そんなことをして、予備校サイドに何か、いいことがあるのかって?
 もちろん、合格実績である。
 何しろ全国模試の優秀者だもの、当然のごとく、難関大学に合格していく。
 お金は一銭も払っていない特待生でも、生徒は生徒だから、それが全部予備校の宣伝になる。
 たとえ一回も講義に顔を出さなくても。一回きりで顔を見せなくなってしまっても。もともと無料なのだから、わざわざ退塾届など出しはしない。ずっと欠席扱いの、幽霊在籍ということで、合格者数にカウントされるわけだ。

 東大合格者ウン千名、とか言っているやつは、だいたいがこれだ。
 まったくもって、悪知恵もここに極まれり、である。

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(話は次回に続く)

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