容姿いじりは、けしからん。ルッキズムよ、さようなら。
それが昨今の、風潮だ。
おっしゃる通りである。
芸能界にも、流れは押し寄せた。ついにはお笑いの世界でも、ブスいじりはもういい加減よしにしよう、という雰囲気が醸し出されつつあるようだ。
これもまた、おっしゃる通りである。
だがしかし、である。ここで一つ、大きな問題が生じる。
ブスいじりで笑いを取る以外には何の芸もない――何の取り柄もない大量の女芸人たちが、居場所を失うわけである。
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そもそもの昔から、女芸人はブサイクを旨としていた。
不器量であること。男にモテないこと。結婚できないこと等々を誇張して、ひたすら「笑われる」のが常道だった。
もちろんそれは、必ずしも珍妙な動物を見るような、冷ややかな笑いばかりではない。
女を捨てて笑いに生きる――頑張っているその姿は、特に同性の観客に好感され、共感された。いわば応援の意味もこめて、笑ってくれていたのである。
そんなにブスではない、女芸人もいるって? それはその通りだが、彼女たちの場合も基本的な構造は、何も変わらない。
ブスでもないのに女を捨てて、笑いに生きる姿が好感され、応援されて、笑ってくれていたのである。
別にネタが面白くて、しゃべりが巧みで受けているわけではない。
それが証拠に、もしまったく同じお笑いを、男性芸人が演じたと想像してごらん。
笑ってくれると思うかい? 通用すると思うかい? くだらん、お前らもういいからあっち行ってろ、とただ冷たくあしらわれて終わりである。
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そもそも芸人にかぎらす、女の「お笑い偏差値」は低すぎる。
体力差が出るスポーツの場合と、変わらないくらい男女の、能力差がある。
もちろんそれが、生物学的な差異だなどと、言うつもりはない。ひとえに社会的な、ジェンダーの問題だ。
女は美しくあるべき、という古い価値観が、彼女たちを縛っていた。それでは道化になり、三枚目に徹して笑いを取るような、文化は育たなかったのだ。
誰も男たちのように、笑いに鍛えられてはいない――それはそれで、少なくともお笑いを志す女の子にとっては、不当なハンディとなっただろう。
だが背景がどうであろうと、現につまらないものはつまらない。笑えないものは笑えないのだから、しかたがない。
『M-1』だってそうだろう。ああやって性別不問で戦えば、女性コンピなんていつも、努力賞程度の成績しか取れはしない。
これではいけない。女性のお笑いファンが離れてしまう。というわけで最近では、『THE W』とかいって、女性版の『M-1』を企画しているようだ。
何のことはない。女子スポーツの場合と同じ、手口を使おうというのだ。グチの繰り返しになるから、ここでは割愛するが。(参照)
――そんなふうに、女の「お笑い偏差値」は低すぎる。
だとしたら、そこで笑いを取ろうとすれば、やはり不美人の自虐を売りにするしかなかったのだ。
だから日本の女のお笑いは、ずっとそれでやってきた。
そしてそんな特殊な環境には、特殊な環境に適応して進化した、奇怪な生き物たちが現れる――あんな見た目の面々が、ぞろぞろと登場して、芸能界の一角を占めるようになったのだ。……
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『さんま御殿』という番組がある。
さまざまな分野から新しい出演者を募り、お笑いではない彼らから笑いを引き出す手際が、面白くてずっと見続けている。
ただ常々、不満なことが一つあった。やはり一部、準レギュラーのようなメンバーもいて、繰り返し繰り返し顔を出す。
新鮮味に欠けるたワンパターンのやりとりでは、番組のよさが大いに損なわれる。
中でもとりわけ醜悪なのが、女芸人の一団だ。自ら「醜女軍団」と名乗るくらいだから、その容姿は想像にかたくないだろう。
数回ごとに設定される「モテ女vs結婚できない女」系のテーマに沿って、後者の女性の代表として、彼女たちが徒党をなして出場するわけだ。
「XvsY」の 字面は多少違っても、中身はほぼ同工異曲のテーマ設定。見るに堪えないご面相と、聞くに堪えない掛け合いに、毎回すっかりうんざりさせられたものだ。
だが気のせいか最近、この一年ばかりか、この手の企画を見かけなくなった。
邪推かもしれないが、お偉方の編成会議か何かで、内容が問題になったんじゃないかな。要するに「ブスいじり」なわけだから、時節がら、コンプライアンス的にまずいだろうと。
きっと世間から叩かれる前に、こっそりと引っ込めて、なかったことにしようという魂胆なのだ。
もちろん、このご時世だもの、それも結構なことだ。
だがしかし、なかったことにされてしまう女芸人たちの方は、たまったものではない。
何しろ他に何の芸も、取り柄も、能力もない。ただブスだけを売りにして、食ってきたのだ。
それなのに大量にリストラされて、仕事をなくしたこの鬼面組のおばさんたちは、明日からどうやってご飯を食べていったらいいのだろう?
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「責任取ってね」――
男が一番、言わてドキッとするセリフである。通常想定される状況は、どのようなものであるか、もはやおわかりだろう。
だが今の場合は、まったく文脈が違う。
散々番組で利用するだけ利用しておいて、最後はこの仕打ちかよ。時流だか何だか知らないが、あっさりとお払い箱かよ。
お前らだって、ちゃんと責任取れよ。――
もちろん恨まれるのは、テレビ局だけではない。そこでMCを張っていた明石家さんまだって、同罪なわけだ。そんな企画にずっと、加担してきたわけだから。
いずれ劣らぬ鬼面組が、明石家さんまを取り囲む。
そしてあちらの方面では、一生言う機会がなかったセリフを、一斉に口にするのだ。
――さんまさん、責任取ってね。……
あなおそろしや、おそろしや。
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