さんまさん、責任取ってね

 容姿いじりは、けしからん。ルッキズムよ、さようなら。
 それが昨今の、風潮だ。
 おっしゃる通りである。

 芸能界にも、流れは押し寄せた。ついにはお笑いの世界でも、ブスいじりはもういい加減よしにしよう、という雰囲気が醸し出されつつあるようだ。
 これもまた、おっしゃる通りである。

 だがしかし、である。ここで一つ、大きな問題が生じる。
 ブスいじりで笑いを取る以外には何の芸もない――何の取り柄もない大量の女芸人たちが、居場所を失うわけである。

     *

 そもそもの昔から、女芸人はブサイクを旨としていた。
 不器量であること。男にモテないこと。結婚できないこと等々を誇張して、ひたすら「笑われる」のが常道だった。
 もちろんそれは、必ずしも珍妙な動物を見るような、冷ややかな笑いばかりではない。
 女を捨てて笑いに生きる――頑張っているその姿は、特に同性の観客に好感され、共感された。いわば応援の意味もこめて、笑ってくれていたのである。

 そんなにブスではない、女芸人もいるって? それはその通りだが、彼女たちの場合も基本的な構造は、何も変わらない。
 ブスでもないのに・・・・・・・・女を捨てて、笑いに生きる姿が好感され、応援されて、笑ってくれていたのである。
 別にネタが面白くて、しゃべりが巧みで受けているわけではない。
 それが証拠に、もしまったく同じお笑いを、男性芸人が演じたと想像してごらん。
 笑ってくれると思うかい? 通用すると思うかい? くだらん、お前らもういいからあっち行ってろ、とただ冷たくあしらわれて終わりである。

     *

 そもそも芸人にかぎらす、女の「お笑い偏差値」は低すぎる。
 体力差が出るスポーツの場合と、変わらないくらい男女の、能力差がある。

 もちろんそれが、生物学的な差異だなどと、言うつもりはない。ひとえに社会的な、ジェンダーの問題だ。
 女は美しくあるべき、という古い価値観が、彼女たちを縛っていた。それでは道化になり、三枚目に徹して笑いを取るような、文化は育たなかったのだ。
 誰も男たちのように、笑いに鍛えられてはいない――それはそれで、少なくともお笑いを志す女の子にとっては、不当なハンディとなっただろう。
 だが背景がどうであろうと、現につまらないものはつまらない。笑えないものは笑えないのだから、しかたがない。

 『M-1』だってそうだろう。ああやって性別不問で戦えば、女性コンピなんていつも、努力賞程度の成績しか取れはしない。
 これではいけない。女性のお笑いファンが離れてしまう。というわけで最近では、『THE W』とかいって、女性版の『M-1』を企画しているようだ。 
 何のことはない。女子スポーツの場合と同じ、手口を使おうというのだ。グチの繰り返しになるから、ここでは割愛するが。(参照) 

 ――そんなふうに、女の「お笑い偏差値」は低すぎる。
 だとしたら、そこで笑いを取ろうとすれば、やはり不美人の自虐を売りにするしかなかったのだ。
 だから日本の女のお笑いは、ずっとそれでやってきた。
 そしてそんな特殊な環境には、特殊な環境に適応して進化した、奇怪な生き物たちが現れる――あんな見た目の面々が、ぞろぞろと登場して、芸能界の一角を占めるようになったのだ。……

     *

『さんま御殿』という番組がある。
 さまざまな分野から新しい出演者を募り、お笑いではない彼らから笑いを引き出す手際が、面白くてずっと見続けている。

 ただ常々、不満なことが一つあった。やはり一部、準レギュラーのようなメンバーもいて、繰り返し繰り返し顔を出す。
 新鮮味に欠けるたワンパターンのやりとりでは、番組のよさが大いに損なわれる。
 中でもとりわけ醜悪なのが、女芸人の一団だ。自ら「醜女しこめ軍団」と名乗るくらいだから、その容姿は想像にかたくないだろう。
 数回ごとに設定される「モテ女vs結婚できない女」系のテーマに沿って、後者の女性の代表として、彼女たちが徒党をなして出場するわけだ。
 「XvsY」の 字面は多少違っても、中身はほぼ同工異曲のテーマ設定。見るに堪えないご面相と、聞くに堪えない掛け合いに、毎回すっかりうんざりさせられたものだ。

 だが気のせいか最近、この一年ばかりか、この手の企画を見かけなくなった。
 邪推かもしれないが、お偉方の編成会議か何かで、内容が問題になったんじゃないかな。要するに「ブスいじり」なわけだから、時節がら、コンプライアンス的にまずいだろうと。
 きっと世間から叩かれる前に、こっそりと引っ込めて、なかったことにしようという魂胆なのだ。

 もちろん、このご時世だもの、それも結構なことだ。
 だがしかし、なかったことにされてしまう女芸人たちの方は、たまったものではない。
 何しろ他に何の芸も、取り柄も、能力もない。ただブスだけを売りにして、食ってきたのだ。
 それなのに大量にリストラされて、仕事をなくしたこの鬼面組のおばさんたちは、明日からどうやってご飯を食べていったらいいのだろう?

     * 

「責任取ってね」――
 男が一番、言わてドキッとするセリフである。通常想定される状況は、どのようなものであるか、もはやおわかりだろう。 

 だが今の場合は、まったく文脈が違う。
 散々番組で利用するだけ利用しておいて、最後はこの仕打ちかよ。時流だか何だか知らないが、あっさりとお払い箱かよ。
 お前らだって、ちゃんと責任取れよ。――
 もちろん恨まれるのは、テレビ局だけではない。そこでMCを張っていた明石家さんまだって、同罪なわけだ。そんな企画にずっと、加担してきたわけだから。

 いずれ劣らぬ鬼面組が、明石家さんまを取り囲む。
 そしてあちら・・・の方面では、一生言う機会がなかったセリフを、一斉に口にするのだ。
――さんまさん、責任取ってね。……

 あなおそろしや、おそろしや。

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