昔ある競馬の予想会社が、「情報料は当たった時だけいただきます」という、キャンペーンを打った。
よほど予想に自信があるのだろうな、と会員の申し込みが殺到したようだ。
もちろん、違法な点はいささかもない。ただ顧客の錯覚を利用して、儲けているという点では、かぎりなく詐欺的な手口と思うのだが、その仕掛けはおわかりだろうか?
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ヒントは以下の理屈にある。
ビジネスというものは、すべての場面で利益を上げる必要はない。
たとえ十のうち半分の五は儲けが出なくても、――極端に言えば、赤字であってもかまわない。残りの五で、それを上回る黒字を出せば、トータルではプラスとなる。
たとえ勝率五割に見えたとしても、それはそれで十二分に成功した、ビジネスモデルと呼べるのだ。
あとはそのモデルの、規模を拡大していきさえすれば、いくらでも利潤を増やすことができる。――
競馬予想の場合で言えば、もちろん予想は大方外れるだろう。情報料はもらえない。
だが別段、それで罰金を取られるわけでも、損害賠償を請求されるわけでもない。何しろ外れた場合は、情報料はいただかないわけだから、クレームをつけるやつもいないだろう。
利益こそ生まないが、マイナスゼロなのだから、実は痛くも痒くもないのだ。
一方予想を続けていれば、いつかは必ず当たるだろう(笑)。そのときにしっかり料金をいただければ、トータルのビジネスは黒字となる。
それでもし、広告に釣られて客が殺到するのなら、巨万の富を築くことだってできるのだ。
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もちろん実際の場合には、「いつかは当たる」などという、悠長なことは言っていられない。
「いつか」を待っているうちに、会社は干上がってしまうし、そもそも初回の予想が外れた段階で、もう二度と客は寄り付かない。広告を打った費用の分だけ、損をして終わってしまう。
そこで巧妙な手口が用いられる。必ず初回から利益を引き出せる、実にすてきなシステムがあるのだ。
たとえば5万人の会員が、申し込みをしたとしよう。
競馬のレースは五頭立てだ、と仮定しよう。
5万人の会員を、1万人ずつ5つのグルーブにわける。そして最初のグループには、1番の馬の単勝を推奨し、次のグルーブには2番の単勝を、というように5通りの違った予想を伝達するのだ。
電話口で個別に買い目を教えるやり方なら、そんなでたらめも、十分に可能なのである。
当然4つのグループは、馬券が当たらない。情報料はもちろん払わないし、二度とこの会社を利用することもないだろう。だがそれで、かまわないのだ。
なぜって、必ず一つ的中のグループが出る。その客たちから、たっぷり金をせしめればよい。
何しろ彼らは、舞台裏の仕組みを知らない。他の客には他の買い目を教えているなんて、夢にも思わない。
だから彼らの目には、この会社の情報は、百発百中に見えているのだ。
そうなれば、次のレースの買い目を知りたいがために、どんな高額な入会金でも進んで納めるにちがいない。
それはそうだろう。たとえ入会金が10万円でも、次のレースに大金をつぎ込んで、そこそこの配当で勝てば、黒字どころではないわけだから。
かくして1万人の客から、一人10万円の金が徴収される。掛け算すれば10億だ。
広告費やらの必要経費を差っ引いたって、ぼろがつくほどの大儲けなのだ。
ぼろ儲けのあとは、今度はぼろが出ないうちに早々にトンズラして、はいさようなら、というわけだ。
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どうだい、実に見事なお手並みだろう?
それもこれもひとえに、「商売はトータルで儲けが出ればいい」という私の教えをよく咀嚼して、実践したことから来るのだ。
本当に、この鉄則は工夫次第で、いくらでも応用が利く。
競馬屋たちの手口を参考にして、あなたも新手のビジネスを、考案したらいかが?
コンサルタント料は、儲かった時にだけ。以下の口座に。
三菱UFJ銀行 調布支店
口座番号33964 オニサワテツオ
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(話は次回に続く)
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