大谷翔平のドジャースとの契約金が、1000億円を超えると話題になった。
加えてその仕組みも、あきらかになった。巨額の契約金のほとんどが、「後払い」と定められているのだ。
あちらではその点に、批判(注)が殺到しているという。その理由は、――
大リーグでは通称、「ぜいたく税」と呼ばれるシステムがある。
チームの全選手の年俸総額に上限を設け、それを超えた球団には、罰金等のペナルティーが課せられる。
金持ち球団だけが、選手をかき集めることを防ぎ、戦力の均衡をはかるためである。
「後払い」契約は、この制裁金を回避するための、卑劣な抜け道だと非難しているのだ。
どれだけ的外れな、言いがかりだろう!。
繰り延べされたからといって、支払いがなくなったわけじゃない。
将来のある時点では、必ず支払いは行われる。(文末の補注参照)
その時点ではぜいたく税の対象になるわけだから、脱税でもなんでもないのに、そのあたりの区別がまったくついていない。
目の前にないものは、この世から存在が、消え去ったと思い込む――まさしく頭の悪い人間たちの、習癖そのものじゃあないか。
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「対象の永続性」(注)という用語がある。
目に見えなくなったものも、この世から消え去ったわけではなく、どこかで存在を続けている、ということだ。
別にむずかしい哲学ではない。
赤ん坊の前で、母親が急にカーテンの陰に身を隠す。
姿こそ見えなくなったが、母親はまだカーテンの向こうにいるはずだ――この認識を学術用語では、「対象の永続性の理解」と呼ぶのだ。
通例乳児は、生後6か月前後で、この理解を獲得する。
「いないいないばあっ!」を喜ぶようになるのも、ちょうどこの頃からである。
つまりは目に見えない母親が、遮蔽物の向こうに存在を続けている――という自分の認識が、正しいと確認されたことがうれしいのだ。予想通り母親が再出現したことに、満足しているわけだ。
ところが、6か月で獲得するはずのこの認識を、知的思考に応用できない連中がいる。
前述の「後払いはけしからん」がそれである。
今払われなくても、将来支払われるのだから、対象は同じように存在している。――この当たり前の理屈が、おそらくは脳細胞の数の不足のために、やつらにはどうしても納得できないのだ。
こんな別の例もある。
以前「所得税と比べて、消費税は金持ち優遇だ」という主張があった。金持ちは収入のほとんどを貯蓄してしまうから、消費税がかからない、というわけだ。
だけどその貯蓄したお金は、先々一体どうなるんだろう? いつかはどこかで、必ず使われるわけだよね。そのとき消費税がかかるんだから、結局同じことだろう。
もちろんごくまれに、ずっと使わないこともある。でも使わないってことは、あっても意味がない。存在しないのと同じである。存在しないものに、税金なんかかかるわけないだろう。そう考えるのが、賢者の理屈なのだ。――
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もちろんあいつらは、頭が悪いだけではない。人種的偏見にも、満ち満ちている。
白人以外の人種は劣等なはずだと、心の底で信じているから、黄色い猿の大谷が史上最高年俸を獲得したのが、いかにも我慢ならないのだ。
誤審地獄で大谷をつぶそうとした、アメリカンリーグの審判どもと、根は同じである。
くわしくは過去投稿(「大谷翔平がドジャースを選んだ一番の理由」)を参考にしてほしい。
頭が悪いうえに、ヘイトで頭が一杯だ――つまりは今回の連中は、ドナルド・トランプの支持者と、びったりと特徴が重なるのだ。
同じ社会階層に所属している、というだけではない。きっと全員、同一人物なのだと思う。
「2020年の大統領選挙は盗まれた」と信じ込んでいるパープリンどもが、「大谷はズルをして脱税をした」と勘違いして、わめき散らしているのだ。
まあ、馬鹿は放っておけと言われればそれまでだが、そうすると一つだけ、心配なことがある。
かつて選挙結果に抗議したアホどもが、議事堂に乱入して、死傷者すら出したように。大谷の身に、何か危険でも及びはしないかと。
そんなおそろしい結果にならないように、大谷邸の身辺警護は、ぜひとも厳重に執り行ってもらいたい。
かの偉大な国の警察隊に、それだけは重ね重ね、お願いしておきたいものだ。――
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補注:
ネットで調べたところによると、「後払い」の場合、ぜいたく税の対象となるのは「将来支払われた時点」ではないようだ。
契約が交わされた時点で、つまり来年度から、「契約金÷契約年数」の金額が毎年算入されるらしい。
ただし「後払い」の場合、インフレ率を勘案した、割引が受けられるという。
同じ1000億円でも、10年後にはインフレによって、貨幣価値が下がっているはずだからだ。
その分だけは、確かに節税の利点があるわけだ。
ただ頭の悪いトランプ派には、そんなむずかしい仕組みは当然わからない。
だから脱税だ、卑劣な東洋人だ、と相変わらずたわごとを並べ立てているのにちがいない。――
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