(話は前回から続く)
以下は蛇足である。
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先日私は、こんなふうに書いた。
――「生きたいのに殺す」のが殺人罪なら、「死にたいのに生かす」のも同じくらい、重罪なはずだ。……
たがこの主張には、実は重大な欠陥があることに、気づかれただろうか。
それはそうだろう。
一度人を殺したら、元には戻せない。その人は生き返ることはない。文字通り取り返しのつかない、犯罪なのだ。
一方自殺を望む人を止めたとして、その人はその後もう一度――何度でもまた、自殺を試みることができる。
だとしたら、たとえそれが自由の意志に対する罪であったとしても、こちらの方はいくらでも取り返しのつく違反なのだ。
そればかりか、もし本当に最後まで自殺を止めようとしたら、ずっと相手につきっきりで、見張っていなければならない。
そんなことはできるはずもないから、制止の試みはいつでも永遠に、未遂に終わるしかない違反だった。
だとしたらその罪の重さが、殺人の場合と、同等であるわけはない。――
もちろんそんな論理の不備を、私は初めから、重々承知している。
すべてを知りながら、他人を言いこめるためには、とりあえず素知らぬ顔をして目をつぶる。
論破の帝王とは、そういうことなのだ。
だとしたら、そんな詐欺師たちのやり口には、みなさんも今後はぜひ、気を付けていただきたい(笑)。
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さらに蛇足になるが、つまらないジョークを一つ思いついたので、最後に記しておこう。
いわく、
――自殺しようなんていう不心得者は、死罪にしてやる、と言った代官 ……
こんなことを書くと、また正論屋どもが騒ぎ出す。
不謹慎だ、冒涜だ、と食ってかかる。
ずいぶんと愉快な、世の中になったものである(笑)。
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