万引き一つで死刑でいい(1) 

 学生時代の英語の授業で、比較級というのを習ったであろう。
 good(よい)の比較級はbetter(よりよい)、最上級はbest(もっともよい)だ。
 prettyの比較級はprettier、最上級はprettiest。

 それでは、perfectの比較級は?
 more perfect? 残念でした、外れです(笑)
 perfectに比較級はありません。当然のことながら、最上級もない。

 それはそうだろう。perfectということは、完全である。
 非の打ち所がない、百点満点の状態を表す。
 満点同志を、比較することができない。
 試験のあとで、オレの方がお前よりもっと満点だ、と言い争っているやつらがいたとすれば、ただの馬鹿である。どこが満点だよ、おおかた0点の間違いだろ、とツッコミたくなる。

    *

 かくして英語には、<比較級を変化をしない形容詞>というものがあるのだ。

 一般に100%同士を比較することはできない。それが理屈である。
 だとしたら0%を表す言葉にも、比較級は存在しない。impossible(不可能な)は、可能性が0%なわけだから、「より不可能な」というようなことは、本来ありえないはずなのだ。

 「100」や「0」ばかりではない。
 たとえば、dead(死んでいる)という形容詞がある。あちらより、こちらの方が「より死んでいる」ということはありえないから、これもまた比較変化はない。
 死んでいるか、死んでいないか、二つに一つしかない。段階というものが存在しないから、比較のしようはない。いわば「100」と「0」しかない。その中間の数字は存在しないわけだ。

     *

 別に英語の蘊蓄をたれているわけではないが、もう一つだけ、絶対に忘れてほしくない単語がある。
 illegal(違法な)である。
 これもまた、気の利いた英和辞典を見れば<比較変化なし>の記述がある。
 法に反しているかいないか、二つに一つしかないわけだから、比較のしようがない。

 どちらも同じく、法に対する違背なのだから、相互に比較することはできない――はずである。
 だが現実の、社会の扱いはどうだろう。法の条文を調べれば、

 刑法 第199条(殺人罪 ):人を殺した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
 刑法235条(窃盗罪):他人の財物を窃取した者は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金刑に処する。

 とある。課される刑罰の、軽重が違うのだ。これは一体、どういうことだろう? 

 もしそれを当たり前と思う者がいとしたら、その人物は知性か感性か、どちらかが鈍麻している。
 あるいはきっと、その両方が摩滅している。
 あなたはまちがえなく、おそろしい思考停止に、陥りかけているのです。

     *

 私ならこう考える。
 何をどうやったか、具体的な犯罪の項目はどうでもよい。

 法を犯したこと、そうして規律を乱したこと。それ自体が厳然たる、罪なのだ。
「違法」に比較級はない。刑罰に軽重があってはならない。

 殺人罪も窃盗罪も、額面上の刑罰は同じでいい。
 推奨。刑法235条、改訂版。


窃盗罪:盗みを働いた者は、死刑又は無期等の懲役、もしくは50万円以下の罰金刑に処する。
 

これで何の問題もないのである。

  (話は次回に続く)

  

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