片付けする子は頭が悪い 

 頭の悪い人間には、複雑と乱雑の区別がつかない。
 ちょっと散らかった感じの机や部屋を見ると、ゴミ屋敷だのなんだのと言う。ちゃんと片づけをしなさいなどと、子供を叱りつける。

 だがちょっと、待ってください。
 これは無秩序じゃありません。ただあなたのような、単純な脳味噌には理解できない、複雑な秩序があるだけです。

     *

 たとえば中学一年生でも、一次関数は理解できる。そのグラフは美しい、秩序に見える。
 だが二次関数となると、中一の知能では、とたんにお手上げである。いきおいそのグラフは無秩序だ、でたらめだ、乱雑だということになる。
 ましてや三次、四次となったら大騒ぎだ。何だこのでたらめぶりは、ちゃんと整理整頓しろよ、とわめきだす。

 図形で言うなら、彼らにとっての秩序は、正方形だけである。
 長方形を見れば、辺の長さは等しく揃えろよ、とたしなめる。台形を前にすれば、ちゃんと全部平行にしろよ、となじる。
 多角形など突き付けようものなら、「まったくだらしないなあ、もう。ちゃんと角くらい取れよ」と嘆き始める。 

 自分の脳味噌で、理解できない高度な秩序を見ると、きっと頭が痛くなってくるのだ。だから必死に、否を叫んでいるのだ。
 そんな彼らには、雪の結晶の美しさなんて、永遠に理解できない。――

     * 

 数学者や物理学者なら、もっととんでもない数式を組み立てる。
 これでもかとばかりに変数を並べ立てて、得体のしれない符号で組み立てたあの法則も、立派な秩序である。
 否。むしろあの深遠な式こそが、宇宙をつかさどる摂理なのだ。

 そしてもし宇宙がそうだとしたら、人の住む部屋だって、きっと同じなのだ。
 中には本当のゴミ屋敷もあるだろうが、私の場合はそうではない。
 凡人たちには想像も及ばない、はるかに高次な式で示されるような、端倪すべからざる法則性が、支配しているのだ。

 私はけっして、すぼらではない。だらしがない、わけではない。ただ、あなたたちより、少しばかり頭がいいだけなのです。
 お気に触りましたか? でしたら、あやまります。
 頭がよくって、本当にごめんなさい(笑)

     *

 整理整頓信仰の、影響は実に多岐に及ぶ。

 そう言えばその昔、「 東大生のノートは美しい」みたいな、タイトルの本もあったっけ。
 そんなことはない(笑)
 本当に頭のいいやつは、そもそもノートなんて取りはしない。取ったとしても、殴り書きのメモくらいなものだ。

 もっとも最近は少子化の影響で、受験生も昔の半分くらいしかいないから、東大もずいぶん入りやすくなった。
 その上まぐれで受かったり、ぎりぎりでもぐりこむこともある。だから中にはその程度の、しょぼい脳味噌の連中も、交じっているのかもわからない。

 初めからすっきりと秩序立った、思考の能力があれば、わさわざそんな紙切れんなぞの、助けを借りはしない。
 きっと頭の中身がごちゃごちゃなもんだから、そうやって必死をこいて、整理してるんだろうな。
 ずいぶんと、哀れなものである(笑)

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