頭の悪い人間には、複雑と乱雑の区別がつかない。
ちょっと散らかった感じの机や部屋を見ると、ゴミ屋敷だのなんだのと言う。ちゃんと片づけをしなさいなどと、子供を叱りつける。
だがちょっと、待ってください。
これは無秩序じゃありません。ただあなたのような、単純な脳味噌には理解できない、複雑な秩序があるだけです。
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たとえば中学一年生でも、一次関数は理解できる。そのグラフは美しい、秩序に見える。
だが二次関数となると、中一の知能では、とたんにお手上げである。いきおいそのグラフは無秩序だ、でたらめだ、乱雑だということになる。
ましてや三次、四次となったら大騒ぎだ。何だこのでたらめぶりは、ちゃんと整理整頓しろよ、とわめきだす。
図形で言うなら、彼らにとっての秩序は、正方形だけである。
長方形を見れば、辺の長さは等しく揃えろよ、とたしなめる。台形を前にすれば、ちゃんと全部平行にしろよ、となじる。
多角形など突き付けようものなら、「まったくだらしないなあ、もう。ちゃんと角くらい取れよ」と嘆き始める。
自分の脳味噌で、理解できない高度な秩序を見ると、きっと頭が痛くなってくるのだ。だから必死に、否を叫んでいるのだ。
そんな彼らには、雪の結晶の美しさなんて、永遠に理解できない。――
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数学者や物理学者なら、もっととんでもない数式を組み立てる。
これでもかとばかりに変数を並べ立てて、得体のしれない符号で組み立てたあの法則も、立派な秩序である。
否。むしろあの深遠な式こそが、宇宙をつかさどる摂理なのだ。
そしてもし宇宙がそうだとしたら、人の住む部屋だって、きっと同じなのだ。
中には本当のゴミ屋敷もあるだろうが、私の場合はそうではない。
凡人たちには想像も及ばない、はるかに高次な式で示されるような、端倪すべからざる法則性が、支配しているのだ。
私はけっして、すぼらではない。だらしがない、わけではない。ただ、あなたたちより、少しばかり頭がいいだけなのです。
お気に触りましたか? でしたら、あやまります。
頭がよくって、本当にごめんなさい(笑)
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整理整頓信仰の、影響は実に多岐に及ぶ。
そう言えばその昔、「 東大生のノートは美しい」みたいな、タイトルの本もあったっけ。
そんなことはない(笑)
本当に頭のいいやつは、そもそもノートなんて取りはしない。取ったとしても、殴り書きのメモくらいなものだ。
もっとも最近は少子化の影響で、受験生も昔の半分くらいしかいないから、東大もずいぶん入りやすくなった。
その上まぐれで受かったり、ぎりぎりでもぐりこむこともある。だから中にはその程度の、しょぼい脳味噌の連中も、交じっているのかもわからない。
初めからすっきりと秩序立った、思考の能力があれば、わさわざそんな紙切れんなぞの、助けを借りはしない。
きっと頭の中身がごちゃごちゃなもんだから、そうやって必死をこいて、整理してるんだろうな。
ずいぶんと、哀れなものである(笑)
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