昔酒の席で、酔っぱらっているときに、思いついたギャグがある。
――空海は実は童貞じゃなかった、って知ってた?
だって「弘法も筆を下す」って言うだろう。……
もちろん、「弘法にも筆の誤り」のパロディーである。
書道の大家とされる、弘法大師こと空海でさえ、字を間違えることがある。
すなわち、名人上手でも失敗はありうる、と諭すことわざである。
一方「筆を下す」とは、新しい筆を、使える状態に準備すること。
新品の筆は穂(毛の部分)が糊で固められていて、そのままでは使えない。穂をぬるま湯につけるなどして、もみほぐしてやる必要があるわけだ。
転じて俗語で、初体験の男性が、初めて陰茎を使用することを指す。
下ネタだからお下劣だが、あくまで下ネタとしては、我ながら名作だと思う(笑)
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その昔、「田宮二郎」(注)という超クールな、イケメン俳優がいた。
タレントとしても活躍し、某クイズ番組の司会を長らくつとめていた。
そのクイズ番組で、あるときこんな問題が出題された。
――文章を推敲し、添削することを「筆を〇〇〇」と言う?
正解はもちろん、「筆を入れる」である。
解答者は、謹厳実直を絵に描いた風体の、年配の男性であった。確か学校の校長先生か何か、お堅い職業の方であった。
その御仁が自信満々に、大声で答えた。
――筆を下す!
その瞬間、クールな田宮二郎の、ポーカーフェイスが崩れた。
吹き出しそうになったのである。
もちろん、そんなことはあってはならない。
司会者が解答者の誤答を笑う、なんてありえない。ましてや、下ネタがからんでいる場合はなおさらである。満座の中で、恥を掻かせることになってしまう。
笑ってはならない。万が一にも、吹き出してはならない。と、必死に笑いをこらえようとする葛藤で、イケメン俳優の顔面が、グニャーと歪んだのを覚えている。
赤っ恥を搔いたのは、解答者である。
単なる誤答ではない。
校長先生は分別臭い顔をしていても、頭の中は実はエロなことで一杯なのだ。それが全国の視聴者に、バレてしまった。
まあ言葉の意味を知っていればの話だが、お茶の間のテレビの前で、思いっきり笑い転げたのは自分だけではあるまい。
*
今ではそれも、みんななつかしい思い出だ。
かれこれ40年も、前のことだったかもしれない。
当時でさえすでに年配であったのだから、あの解答者はとっくに、亡くなっているであろう。
ということは、例の誤答をネタにして、世間の物笑いになることも、もうなくなったわけだ。
さぞかしほっと安堵して、やすらかに眠っておられることと思う。
まさかこの自分以外に、こうしてあの日の赤っ恥を、語り継ぐ者ももはやあるまい(笑)
よかったね、校長先生。どうも、おめでとう(笑)
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