逆陰謀論

 2020年大統領選挙で、「大規模な不正が行われた明確な証拠がある」。
 これがトランプ氏の陣営の主張である。

 なるほど古来数多くの、選挙不正が行われてきた。
 だがそのいずれも権力者たちが――政権与党が、反対勢力を封じ込めるために画策されたものである。
 野党勢力の側が不正操作を行うなど、そもそも物理的にもありうることではない。
 もし彼らの主張通り選挙データに異常があり、明らかな不正の痕跡があるとすれば、その不正を行ったのは他ならぬ与党共和党の方でなくてはならない。

 トランプ政権を守るべく、陣営は必死に不正操作を行った。
 事前の世論調査はバイデン氏圧勝を示していたが、結果は予想ほど 票差が開かなかった。そのことが何よりも与党による不正操作の証拠なのだ――そんな逆陰謀論だって十分に成立するのだ。
 だがしかし、それにもかかわらず、与党は敗れた。その腹いせに今度は、民主党の側の不正を言い立てているのだ

 いずれにしても、選挙当時トランプ氏はアメリカ合衆国の大統領だった。
 いわば世界で一番の権力を手にしていたのだ。FBIだって何だって、その気になれば世界最強の軍隊だって、意のままに動かすことができたはずだ。 
 その世界一の権力者が 「大規模な不正の明確な証拠を手にした」なら。それを阻止するために、あるいはすでに行われたならそれを罰し、覆すために、あらゆる手段を講じることができたはずだ。
 それなのに実際の彼は、一体何をしたのか?
 ただただ、ああしてツイッター上で、愚痴っていただけなのだ。

 それは一体、なぜなのか?
 もちろんすべてが虚偽だったからだ。彼の主張するような民主党の不正など、実際にはまったく行われなかったのだ。
 たとえ大統領の指示だろうとも、それが単なる妄想に基づくものであれば、どの組織も動きはしない。――それが民主主義アメリカなのだ。

 こんなことを言うと、必ず本家の陰謀論が現れる。影の政府(ディープステイト)なるものが国を牛耳って、摘発を妨げているのだ、と。
 だがしかし、もしも本当にそうだとしたら。
 影の政府のなすがままに手をこまねき、ただツイッターで愚痴っているだけの大統領が、大統領でいることに何の意味があるのだろう?
 そんな惰弱なリーダーなら、さっさと後任に席を譲って、永遠に消え去るのが正解なのだ。
 まかり間違ってもまた再選して、得意のツイッターで、愚にもつかないたわごとをばらまくことを始めないように。

 否。
 要するに、要するに彼らの論理は、最初から完全に破綻しているのだ。――

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