「生理」は別に女の宿命じゃない

「男性は女性の生理について無理解だ」と言う。
 だが私に言わせれば、理解の足りないのはむしろ、女性たち自身の方である。

 あの月々のいらだちは、赤ちゃんを産むためになくてはならない、大切な体の仕組みだと教えられ。
 みんながすっかり、そう信じ込んでいる。 

 だがしかし、本当はそれは、けっしてそうではない。
 生理などというものは本来、自然状態の人間には縁がなかった。文明生活のもたらした、病のようなものにすぎない。

     *

 考えてもみたまえ。
 遠い昔の原始の世界では、主にその栄養状態のために、私たちは今よりもはるかに成熟は遅く、寿命は短かった

 仮に15歳で大人の体となり、30歳で天寿をまっとうしたとしよう。その15年の間、女性たちは一体何をしていたのか?
 出産である。
 彼らはひたすら、子供を産み続けていた。
 余談になるが私の母親は11人兄弟、父親は8人兄弟である。子供が一人、二人などという世界は、ごくごく最近の光景であることを、忘れてはならない。

 彼らはひたすら子供を産み続けていた ――そうなれば、もちろん生理などとは縁がない。
 ご存じのように、妊娠期間に加えて、授乳期間にも生理は抑制される。つまりは、もし15年間で10人の子をもうけたとすれば、生理など一度も経験しなかった計算になるのだ。

 ただごくまれに、何らかの事情で妊娠がかなわなかったときに、帳尻を合わせるために起きたのが「生理」なのだ。
(性教育の教科書いわく、「受精卵が着床しなかった子宮内膜がはがれ落ち、腟から排出されるのが生理なのです」) 

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 それはけっして、子孫をもうけるために絶対に必要な、神秘の儀式などではない。
 それは本来なくてもよい。否。それは女性の体にとって、本来あるべきではないイレギュラーな、変則の事態なのだ。 

 少なくとも自然状態の人間の女性は、生理の不快などとはほとんど無縁だった。――もちろん今さら子供を生み続けろ、と言っているわけではない。現代の女性たちのライフスタイルには、十分敬意を払わなければはらない。
 結論はただ一つ。「ピルを飲みなさい」。ただそれだけである。

 ピルはただの、避妊のための手段ではない。その本質は人工的に妊娠状態を作り上げ、生理を管理するための――生理を止めるための薬なのだ。
 それを適切に用いることで、女性たちは今の少子のライフスタイルを変えぬまま、生理にまつわるすべての苦痛から解放される。

 ありがたい医術の進歩のために、ごく少数の特異体質の場合を除けば、今では薬の副作用の心配などほとんどない。
 たとえ少しはあったとしても、生理がもたらす不快の方がはるかにつらいのだから、それを用いないのはきわめて不合理なのだ。

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 しかるに現実の多くの女性は、この魔法の薬に手を出さない。
 否。何らかの目的でそれを常用している女性でさえ、月に一度はわざわざピルを止めて、ことさら生理の期間をもうけようとしている。

 彼らをためらわせているのは、ただ根拠のない不安である。
 本来来るべきものを止めるのは怖い。そんな自然に逆らうようなことをすれば、何かとんでもない天罰が降りかかりそうだ。――
 だが忘れてはならない。実は生理はないことの方が「自然」であり、むそろ生理の苦痛こそが、自然に悖った現代人の生活に、下された天罰なのだ。

 だとしたら生理を止めるピルこそが、少産長寿の文明の病を癒やし、女性たちを本来自然の姿に立ち戻らせる霊薬だった。
 それを恐れるとすれば、写真を撮られたら魂を抜かれる、という迷信と変わらない。
 すべては生理礼賛の神話にたばかられて、科学の恩恵に目を向けぬ、無知蒙昧の産物なのだ。

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