ゴールデンウイークになると、行楽情報をにこやかに伝える、女性アナウンサーの声がはずむ。
国民みんなの幸福感に、自分も共感しているということを、目いっぱいアピールしているわけだ。
そういうアナウンサー自身は仕事中で、休みは取れてはいないわけだけど、とんでもない高給取りなもんだから、別にそれでもかまわない。私もやっぱり幸せです、ってわけだ。
そんなとき彼女が思い描くのは、あの平均的な家族像だ。
正社員でしっかり祝祭日の休みがもらえ、なおかついつもと同じ給与が保証されている。働かないのに金はもらえるから、幸せなのだ。
ついでに結婚して子供がいて、子供たちの学校も休暇となる。家族を旅行に連れまわせるほど、裕福である。
そんな恵まれた勝ち組――いや、少なくとも負け組でない連中に、にこやかに語り掛けているわけだ。
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だが彼女は忘れている。
そうでない、やつらもいるんだよ。
あの負け組の連中――家族や子供の話はさておくとして、非正規で、日雇いや時給制で働いている彼らのことだ。
サービス業の日雇いだと、ゴールデンウイークでも仕事がある。休ませてくれない、と文句を言うかもしれないが、そっちの方はまだましなのだ。
本当の問題は、日雇いのくせにカレンダー通りに、休みになる業種だ。
日雇いで仕事が「休み」ってことは、仕事が「ない」ってことだ。すなわち日銭が入らない。ゴールデンウイークはそのまんま、無給の期間となるわけだ。
それこそいつかの年みたいに、11連休とかになってしまったら、普通の土日とあわせれば5月の半分以上が収入ゼロだ。
日干しになること確定、というわけだ。
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彼らにとっては黄金週間は、そのまま暗黒週間となる。――
世間ではあまり知られていないが、予備校講師の大半は時給制である。
そのうえ学校法人とかいって、土日祝日を休みにしているところも多いから、講師たちはこのゴールデンウイーク地獄にずっぽりはまってしまう。
もともと少子化に直撃されて、予備校の仕事は激減している。給与もやりたい放題に買いたたかれて、ふだんの月だってかつかつの生活なのだ。
そこからさらに差っ引かれいくわけだから、文字通り食いっぱぐれる。今日のご飯は、一体どうしようか。明日は何かに、ありつくことができるだろうか?
かくして5月の予備校講師は、フードバンクに駆けつける。
生徒たちのあこがれの先生が、炊き出しの行列に並ぶ。
人目をはばかって、あたりをキョロキョロと見回しながら。あるいはシャツのえりを立てて、横顔を隠しながら。
そんな悲惨な光景が、今日もまた繰り広げられていることを、NHKの彼女にも思い出してほしい。
そんな連中は所詮コアターゲット注じゃないわけだから、民放の場合は、無視されてもしかたがない。でもせめて公共放送くらいは、財布の中身の多様性にも配慮しろよ。
私のかわいそうな知人たちのために(笑)、陰気な表情でとは言わないが、せめてポーカーフェイスでアナウンスをしてくれないものか。――
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