簡単なクイズを出します。
今東京が2月15日の正午、12時00分だとします。
アメリカのニューヨーク時間は、何日の何時(ごろ)でしょう?
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もちろん時差というものがあることは、誰でも知っている。
東京とニューヨークで、半日くらい(正確には14時間)であることも、多くの方はご存じだろう。
だがそれは14を足して、2月16日の02時00分になるのか? 14を引いて、2月14日の22時00分とするのか?
こうなると、とたんにあやしくなってしまう。
もちろん国際派の方(笑)は、おわかりだろう。
正解は、2月14日の22時00分である。
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さてここで、疑問が生じる。
アメリカは、日本の東にある。
太陽は、東から昇ってくる。
だとしたらアメリカの方が、日本より先に日の出を迎えるのだから、日付も前になるではないのか?
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種明かしは、こうである。
日本の西には、何がありますか? 中国である。
その中国の西には、西アジアがある。西アジアの西には、ヨーロッパがある。
さて、そのヨーロッパの西には、何がありますか?
アメリカである。アメリカは日本の、西にあるのだ。
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いや、もちろん正確には、アメリカは日本の西にも、東にもある。
地球は球体なのだから、東回りで行っても西回りでも、当然アメリカに到達するわけだ。
東と考えるか、西と考えるかは任意で、ただ視点の設定の問題にすぎない。
東にあるとイメージすれば、太陽が先に昇る気がしてくるし、西ならば遅れて昇る気がしてくる。ただそれだけのことなのだ。
当たり前のことだか、みんなついついそれを忘れてしまう。
ただどちらでもいい、というままだと、日付が決まらない。グローバルな営みには、不便で仕方がない。
そこでサイコロを振って(笑)、仮にどちらであるかを決めたのだ。
つまりは日付変更線 なるものを、でっちあげた。経度180度、ちょうど太平洋の真ん中あたりに勝手に線を引いて、それを東から西にまたいだら、日付を1日進めると決めたのだ。あくまでも便宜的に。ただの仮構として。
それでいつのまにか、日本の方が時間が先で、アメリカの方が遅れていることになってしまったわけだ。
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クイズの教訓は明らかだ。
私たちがアメリカを考えるとき、どうしても 見慣れた地図を思い浮かべる。
太平洋を間にはさんで日本が左に、アメリカは右にある。その残像が瞼に焼き付いているかぎり、アメリカは永遠に東にあり続ける。
時差についての誤った固定観念を、離れることもできはしない。
視点の固着を解くこと。偏りを補正すること。
ときには空から鳥瞰すること。そうすることで、まったく違う景色が見えてくる。
複眼的な思考を心がけ、訓練すること。そうすれば新しい、独創的な発想が沸き上がる。
とりわけこれで、論戦は圧倒的に有利になる。
相手がまさか気づかなかった、斬新な視点で現実を切って見せる。
それが何か少しでも、真実を開示してくれれば、もうけものだ。たとえそうでないとしても、論争相手をあっと言わせ、ひるませるだけでも、十分に効果がある。
相手はきっと、自分の無知と固陋を恥じて、すごすごと引き下がる。
それだけでとりあえず、論破は完了である(笑)
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論戦も武道の一種だとすれば、いつでもしなやかな身のこなしを――柔術の極意を忘れないことだ。
アメリカは日本の西にある、と考えること。そこには必ず、心に留めておくべき寓意がある。
つまらない講釈だが、絶好の頭の柔軟体操だと思ったので、以上を記しておいた。
もっともあんまり柔らかくしすぎると、私のように液体脳みそになって、いつでもちゃぽんちゃぽんと、音がするようになりかねないから注意されたい。――
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