ドラフトって憲法違反じゃなかったっけ?

 なつかしい話をしよう。「 江川事件(1978年)」である。
 若い方はご存じないだろうから 詳細はネットを参照してほしい。

 かいつまんで言えば、当時阪神タイガースにドラフト1位指名された江川卓投手が、入団を拒否した。
 そればかりかドラフトの網の目をくぐって、希望球団のジャイアンツと契約した、という事件である。

     *

 当事者である読売新聞は、当然自己擁護に走った。毎日のように新聞紙上で、反ドラフトキャンペーンを繰り広げたのだ。
 ドラフト制度は憲法違反である。職業選択の自由を、侵害するものであると。

 もちろん、論破は簡単である。
 ドラフト制度は、けっして江川と巨人の契約を、禁じるものではない。
 どうぞご自由に入団してください。ただしその場合には、おたくの球団とは、もう試合はいたしませんよ、――というわけだ。
 どのチームと試合をするか――どの会社と取引するかは、それこそ憲法で保証された、商業活動の自由である。
 いわば「あんな不良社員のいる、おたくのような会社とは、取引いたしません」というようなもので、問題があろうはずもないのだ。

 そもそも憲法の保障する自由とは、国家の介入に対するものだ。それを個人間や、私企業間の問題に当てはめようとすると、たいていは論理に破綻をきたすのだ。
 当の読売も、そんな主張の無理に気づいたのだろう。江川の問題が裏取引で一応の決着を見ると、さっさキャンペーンを引っ込めてしまった。
 憲法まで持ち出して大騒ぎしておきながら、一言の弁明も、謝罪もなく。
 初めから何事もなかったかのように、頬かむりしようというのだから、あきれたものである。

     *

 さて、朝日新聞である。

 読売が反ドラフトを叫んでいる間、朝日はもっぱら制度の裏を掻いた、江川-巨人を糾弾し続けた。
特に憲法論議に、踏み込むことはなかったと思う。
 もちろんこの場合は、朝日の言い分が正しいのだが、問題は両者の乖離である。
 こと憲法にかかわるような重大な問題で、天下の二大新聞が、まったく異なる立場を取った。
 ということは、少なくともどちらかが、間違っているのだ。

 そうだった。忘れてはならない。
 新聞は間違えるのだ。
 公器公論などという言葉にだまされて、長い者に巻かれがちなわが国民は、ついついマスメディアに洗脳されてしまう。彼らの言うことはいつも正しいと、勘違いしてしまう。
 だがしかし、それはもちろん、けっしてそうではないのだ。

 新聞だって放送局だって、一皮むいてしまえばただの私企業だ。
 結局は、自分たちの都合のいいことを、都合のいいように伝えているにすぎない。
 客観性も、へったくれもない。
 当然間違えることもあれば、嘘をつくことだってある。

 論説ばかりではない。普段の事件報道だって、彼らの色眼鏡を通して見えたものを、書き立てているだけなのだ。
 もちろん真実と一致することも多いだろうが、それはいわば、当て推量がたまたま的中したというだけだ。
 メディアの本質そのものが、真実なわけではない。 

     *

 彼らの言説は、つねに眉に唾をつけて、伺わなくてはならない。
 そのことを教えてくれる点で、このドラフトの一件は、大いに教訓になる。 

 そう言えば、どこかの国のアホ面をした大統領が、大手メディアをあげつらって、「フェイクニューズ!」と叫んでいたっけ。
 あれもあながち、暴論とばかりは言い切れないのである。

    *

 (話は明日に続く)

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