毎年毎年、「非常時の緊急経済対策」

 梅雨時は、雨が降るのが当たり前だ。

 晴れ間なんて、奇跡のようにまれにしか顔を覗かせない。

 そのたびに、みなさんさぞお困りでしょうと、毎日傘を配っていたら、傘が何本あっても足りはしない。
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 バブル崩壊、リーマンショック。東日本大震災、コロナ禍、物価高。そして今年ものっけから能登の地震。
 そのたびに「非常時の緊急経済対策」 が行われる。「未曽有の規模の」予算が組まれ、予備費が垂れ流される。

 でも、ちょっと待てよ。
 万事順調で好況の年なんて、いつあったんだ? 高度経済成長が終わったと言われて以来、ほとんど記憶にない。

 毎年何らかの災厄に見舞われて、不況で低成長だとしたら、それは「非常時」ではない。
 そちらの方が――あなたの言う「非常時」の方がむしろ常態であり、「平時」なのだ。
 だとしたらその、平成以降のニューノーマルに合わせて社会を設計し、政策を組み上げていくのが筋なんじゃあないのか。

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 勘違いしてはいけない。
 今回の地震の被災者は、早急に救出しなくてはいけない。
 人道支援はいくらやってもかまわない。

 だがそのあとに、「復興」の名のもとに行われる経済対策は、けっして人道目的ではない。
 震災による、経済的な打撃を恢復する。そのための毎度おなじみの、景気浮揚策だ。
 不況では政権がもたない。そう考える政治家たちの、再選のための保身であり、体のいい選挙対策なのだ。
 
「人道」の大義を持ち出されたら、野党も何も言えない。反対すれば、人非人扱いだ。
 だから全会一致で、打ち出の小槌のばらまきが可能になる。

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 高度経済成長なんて、日本社会に訪れた、梅雨時の奇跡の晴れ間でしかない。
 それを常態と考えて、夢を再びと、 お札を刷りまくる。国債を発行し、借金を重ねる。
 プライマリーバランスの黒字化(注)なんて、今や誰も口にすることさえない。
 国の借金は1000兆円を超え、GDP比で257%。2位のアメリカ(130%)以下の2倍近い。断トツというよりは、目のくらむような数字なのである。

 故安倍晋三氏は、「お札なんて、政府と日銀がいくらでも刷ればいい」と豪語した。
 もちろんこれは、単なる妄言ではない。
 実はMMTという(注)、新しい経済理論を踏まえての発言だった。
 自分たちのリフレ理論(注)が、経済学者のお墨付きをもらったというので、鬼の首を取ったようにはしゃいでいたのだ。

 だが忘れてはならない。それはあくまで、世界中に何万といる経済学者の中に、そんな説を唱え始めた者がいる、というだけのことだ。当然のことながら、学界のコンセンサスではない。
 一部の新しもの好きの、御用学者の言い分を牽強付会して、ただでさえ巨額の借金を以来急速に積み増ししてきたのだ。(注)

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 MMTとは何と、まさにわが国を実験台としながら、現在検証中の際物の理論である。

 実証は失敗に終わる可能性が高い。だがたとえ失敗したとしても、責任を取るのは学者でも、今の政治家でもない。
  子の代、孫の代が結果を引き受けるだけだから、知ったこっちゃないというわけだ。

 だかしかし、そのときにはもちろん、国家の破綻は必定である。――
 と、子も孫もいないオレが心配しているのだから、どうなってるんだろうね、この国は。

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