<馬券塾>走らないとき 走れないとき

 本当に必勝法があったら、人に教えたりはしない。ただ黙って、自分だけ儲けまくるものだ、と言われる。

 だがもしその達人が結構な高齢で、もうくたばりかけているとしたら、どうだろう?
 そんなもの、あの世まで持っていってもしょうがない。せっかく編み出したのにもったいないから、誰がに伝授したいときっと思うだろう。
 数少ないブログの読者に、おすそ分けをしたいという、仏心を起こすかもしれない。
 あるいはこれが、形見分けになるかもしれない(泣)

 それとも詳細は秘密だが、競馬よりもっと割のいいギャンブルを見つけて、そちらに引っ越してしまったのかもしれない。
 競馬でもそこそこ儲ける自信はあるが、よりタイパのよい方を、選ぶのは当然である。
 その結果、競馬必勝法はもういらなくなった。だからその「お下がり」を、もらってもらおうというわけだ。
 昔の女は、もうお前にくれてやる、みたいな話だ(笑)

 そのうえこれは、「必ず勝つ」という意味での、必勝法ではない。
 むしろ「それをやれば必ず勝利に近づく」、やらないよりはやった方が必ず回収率が上がる、という性質のものだ。
 連戦連勝の猛者となるには、さらに同様な必勝法を、いくつか組み合わせる必要がある。
 その意味ではけっして、門外不出の秘伝という、ほどのものではないのである(笑)

     *

 人間でもよく、「火事場の馬鹿力」というものがあるだろう。
 ここぞというときには、ふだんのその人からは想像もつかないような、超人的なパワーを発揮する。

 そんな能力があるなら、出し惜しみしないで、いつももっと頑張れよと思わず言いたくなる。だがそうはいかない。
 非常時にしか出せないから、「火事場の」と称しているのだ。

 厳密に言えば、無理やり出そうと思えば、出せないわけではない。だがその後がいけない。
 無理やり絞り出してしまったから、後はカスしか残らない。
 放電状態、生けるしかばねとなって、当分の間は立ち直れない。ひょっとしたら、燃え尽きてしまつて、もう二度と立ち直れない。
 一生一度とは言わないまでも、そう何度も何度も使える手口ではないのだ。

     *

 競走馬だって同じことだ。
 
 ここぞというレースでだけは、火事場の馬鹿力を発揮する。
 もちろん馬自身が、選んでそうしているわけではない。厩舎やら馬主やら、その馬の陣営の思惑で、そのように仕向けているのだ。
 ここぞというレースでは、究極の仕上げをする。体を絞り切り、苛烈なトレーニングで鍛えぬく。
 いざレースに臨めば、目一杯に馬を「追う」。つまりは手綱をしごき、鞭をふるって馬を駆り立てるのだ。
 その結果アドレナリン出まくりの、興奮状態になった馬は、狂ったように走る。120%の力を出して、奇跡的なパフォーマンスを発揮するのだ。

 そのようにして、しばしば大レースで、華々しい勝利を収めたりする。
 だが忘れてはならない。それはあくまでも、そのレースに限ってのことだ。
 厩舎や馬主が、目標としてきた勝負レースだからこそ、そんな無茶な走りをさせることができたのだ。

 それまでのレースは、そうではない。
 年がら年中、馬に苛酷なトレーニングを課すわけにはいかない。そんなことをしたら、馬が疲れ果ててつぶれてしまうから、体を緩めて休ませる期間も必要だ。
 レースに行っても同じことだ。別に手抜きをしているわけではないが、普通の――100%の力しか出さないとしたら、火事場の馬鹿力から比べたら、イマイチの走りに映るだろう。

 とりわけ気をつけなければならないのは、「その後の」レースだ。
 火事場の馬鹿力を出した直後なら、よくても相当の疲労が残る。
 たいていの場合は、体はガタガタなのだ。
 とうてい普通の――100%の力は出せない。まあ8割くらいの走りしか、期待できない。
 ひどい場合だと完全に燃えカス状態に――抜け殻のようになってしまって、まったく走ろうという意志を見せないことがある。
 え? あの強かった馬が、一体どうしちゃったの?
 と、しろうとのファンが首を傾げるのは、ほとんどこういう場合である。

     * 

 ファンの瞼には「最高のレース」の、鮮烈な姿が焼き付いている。
 特にそれが、ついこの間のレースである場合は、なおさらである。
 当然のことながら、その馬は買われて、人気になる。オッズは下がる。

 でも今回のレースは、単なる試走かもしれない。
 最悪のケースでは、目の前の今日の馬は、すっかりバーンアウトした燃えカスかもしれない。
 典型的な「危険な人気馬」となる。 

 そんな「大人の裏事情」を、心のどこかに止めておくだけで、大損は回避できるかもしれない。
 ひょっとしたらその裏を掻いて、大儲けをたくらむことも、できるかもしれない。
 前回のレースぶりがばっとしなければ、人気は下がる。でも前回は単なる、足慣らしだったかもしれない。
 今回こそが勝負レースで、本気で――死ぬ気で走るかもしれない。そんな馬が、大穴を開けたりするのだ。

 前走が楽勝だったような場合は、人気でもかまわない。
 だがそこで、二着馬とデッドヒートを演じて、かろうじて鼻差で勝ったような場合は、力を使い切っている。
 とりわけそれが、レコードタイムだったような場合は、無茶な走りをしたことになる。
 バーンアウトの危険が高まるから、今回は馬券は見送った方がいい。むしろ他馬で勝負する方が、賢明である。

 その馬のレースの使われ方――「ローテーション」をよく見て、どこが勝負レースかを察知することだ。 
 馬の個性や状況に応じて、一概には言えないが、休養明け二戦目か三戦目に、勝負をかけることが多い。
 期待の高い馬なら、大レースが目標で、その前は試走となる。逆に期待の低い馬は、強い馬がまだ万全の状態で出てこない、前哨戦の方で勝ちに来る。
 ――そんな常識も、覚えておくといい。

(話は次回に続く)

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