トリック写真なんて絶対使わないライザップ

 フィットネス産業というものがある。
 健康な心身のためのお手伝い、というのが一応の謳い文句だが、要するにダイエット。痩身ビジネスである。

 2016年の、RIZAP(ライザップ)のコマーシャルが衝撃的であった。
 いわゆる「ビフォー&アフター」の作りである。
 まずは森永卓郎あたりが、思わず目をそむけたくなるような、世にも醜い裸身をさらす。それがライザップ前の、「ビフォー」の姿だ。

 その直後に、軽快な音楽に乗って「アフター」が現れる。
 ライザップをした後のその森永は、何でも2か月で20キロ減量したらしく、ずいぶんシャキッとした感じだ。もちろん、生まれついてのブサイクは隠すべくもないが(笑)、そこそこ見られる姿になっている。
 へえ、ライザップをすると、こんなに変身できるんだ。それなら自分も、――と世の中の醜い裸身のオヤジたちが、森永卓郎みたいになりたいとあこがれて(笑)、次々入会したという。

     *

 疑い深い連中は、きっとこう思う。

 どうせトリック映像だろう。写真加工だろう。
 今やアプリを使えば素人だって、いくらでも映像を加工できる。ましてプロの手に掛かれば、こんなCMをでっち上げるくらい、お手のものなのだ。――

 だがしかし、ライザップはけっして、そのようなことはいたしません。
 上場企業ですもの、そんな卑怯な手口は、使いたくても使えません。内部告発か何かで、発覚でもしたら、大騒ぎになりますから。
 加工なんか、全然しなくてもCMが作れる、すてきな手口があるのです。――

     *      

 たとえば、こんなのはどうだろう。

 CM出演が決まっても、すぐには「ビフォー」を撮らない。
 撮影は1か月後になります。それまでに目一杯不摂生をして、体重を増やしておいてください。――と指示を出すのだ。
 いわば「ビフォー」のための、役作りの依頼である。

 けっしてむずかしい、お願いではない。
 誰もが覚えがあるだろう。痩せるのは至難の業だが、太るほうは簡単だ。
 特に胃弱じゃないかぎり、脂っこいものを食いたいだけ食って、ちんたら寝てすごせばそれでいい。
 あっという間に10キロくらい増量して、すっかり見るに堪えない太鼓腹になる。そこでようやく、撮影の段取りとなる。あの例の、「ビフォー」の映像が完成する。

 それからが、瘦身術の出番だ。満を持して、やっとライザップに――いや失礼、所定のダイエットに取り掛かる。
 通常の体重から10キロ落とすのは大変だ。だが今のこの場合のように、無理やり一時的に太らせたものなら、元に戻すのは簡単だろう。
 普通の生活に帰るだけでも、増やした分の10キロは落ちるはずだ。そのうえライザップの力を借りれば、さらに万全で、ひょっとしたら加速がついて15キロくらい減量するかもわからない。
 そこでさっそく「アフター」を撮影すれば、衝撃の作品が出来上がる、というわけだ。

 思い切り太らせてから、痩せさせる。どうです? うちのダイエットって、効果てきめんでしょ、となる。
 何のことはない。トリック写真を使ったのではない。CM全体が、巧妙なトリックなのだ。

     *

 もちろんこれは、あくまでも私の、勝手な想像である。
 何の証拠も、情報源もない。

 おそらくライザップは、こんな汚いやり方はしていない。
 森永氏本人の言によれば、氏は撮影の依頼を受けるずっと以前から、極度のメタボ状態(体重89.4キロ、ウェスト114センチ)を続けていた。そこからすでに糖尿病を患い、生活習慣改善が見られなければ命にかかわると、医師の警告を受けていたという。
 つまりは、わざと醜くしたわけではない。初めから醜かったのだ。
 撮影のために、無理やり太らせてフォアグラ(注)にしたわけではない。もともとが、フォアグラだったのだ。

 役作りのために、見るに堪えない姿にしたわけではない。当初から見るに堪えない人間を、モデルに選定したというわけだ。
 それでも結局、原理は同じことだと思うが、こちらは100パーセント合法だ。どこからも後ろ指を、さされることはない。
 それが世の中の、実に不思議な仕組みなのだ。

     *

 これはあくまで私の想像だ。実際にはライザップはおろか、どこの特定の企業も、こんなふざけた真似はしていない。――
 ん? 待てよ。だとしたらこれは、オレの新案特許じゃなあないか。

 こんな絶好の名案を、実行しないという手はないはずだ。
 だとしたら誰かこの手口を使って、オレの代わりにガッポリと、儲けてきてくれる者はないか?

 もちろん、アイディア料分だけの分け前は、しっかりと払った上で。――

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