「医系予備校」と呼ばれる業種がある。
医者のバカ息子/娘を、何とか私立医科大に押し込もうとする。それが専門の、予備校である。
バカだから、手取り足取り教えなくてはいけない。
集団授業では面倒は見られないので、たいていはマンツーマン指導だ。クラス授業はたとえあっても、5名程度の少人数で行う。
そうなれば当然、一人一人の払う授業料は高くなる。年間授業料が500万円を越える、なんていうのはざらにある。
通常授業は9時~5時で終わっても、放課後に自習指導や補習がある。
予備校が閉まった後も、生徒は寮に入れているから、24時間態勢で管理する。
その手の世話は、当然全部別料金となる。諸経費を含めれば、負担は年間1000万近くかかることもある。
ほとんどが開業医の子弟だから、親はいくらでも金は払う。
医者になりさえすれば、十分元は取れる、と計算しているのだ。
ときには裏口入学の世話もする。そのときには、億に近い裏金が必要になる。
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生徒の学力は、中学生程度である。知能の方は、幼稚園児レベルかもしれない。
何でそんな連中ばかりが、集まるのか? 理由は単純である。
学力も能力もある生徒なら、みんな集団授業の、大手予備校に行ってしまう。そうすれば費用は、10分の1で足りるわけだから。
それができないような欠陥品だから、ボッタクられるのを承知で、泣く泣くここに通っているのだ。それより他に、合格の方法はないわけだから。
学習能力がないから、いくら頑張らせても、そう簡単には入試は突破できない。
3浪くらいは当たり前だ。5浪では誰も驚かない。
10浪して初めて殿堂入りとなるが、殿堂と言われるくらいだから、過去にも同じような面々がいたわけだ。
かけ算を掛するのを、忘れてはいけない。10年浪人するということは、10年間医系予備校に通うということだ。1年で1000万とすると、1億円を納めなくてはならない。
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それだけ金を払っても、必ず合格すればいいが、けっしてそうはならない。
予備校の発表する合格率なんて、信じてはいけない。
10人生徒がいて、一人だけ合格したとする。普通に考えれば合格率は10%だ。
だがその一人が5校併願して、全部合格したとする。
そうすると10人の生徒で、5校合格したのだから、合格率は50%と言い張るのだ。
それが予備校式の、計算法というものだ。
そんなでたらめでも、根拠があるだけまだましだ。中には合格者ゼロでも、90%と出すところもある。
どうせわかりゃしないさ。景気づけに、派手な数字を書いておけ、というわけだ。
生徒が受験に落ちても、予備校は痛くもかゆくもない。落ちた生徒は、また来年もここに通って、授業料を払ってくれるわけだから。
途中で受験を諦められてしまうのが、一番怖い。だから何年不合格でも、大丈夫よ、努力は必ず報われるから、と思ってもいないセリフで励まし続ける。
講師の本音は、もちろん違う。
こいつらが医大に合格するなんて、奇跡でも起きなきゃ、ありえない。
たとえ裏口で合格しても、大学を卒業できない。その先の、医師国家試験に通らない。
というよりも、そもそも医者になってはいけない人種なのだ。脳みそが空っぽなんだもの、患者の命を預かることなんて、できるわけがない。
でもそんな心の声は、もちろんおくびにも出さない。ポーカーフェイスで指導を続ける。
そのくらいの役者でなければ、医系予備校の講師なんて、とても勤まりはしないのだ。――
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近年、医者の過重労働が話題になる。(注)
勤務医の労働時間が、過労死ラインをはるかに越えて、ときにはその2倍近くに達している。
医師当人の心身が、蝕まれるばかりではない。ほとんど朦朧状態で仕事をしているので、医療事故と背中合わせの状態なのだ。
早急な制度の改善と、働き方改革が叫ばれる。――
だがしかし、医者がそんなに忙しい理由はただ一つ。人手が足りないからだ。
そのことを知った、医系予備校のアホ生徒が、こう言ったそうだ。
――だからオレたちを、早く医者にすればいいんだよ。合格させればいいんだよ。……
いやいや、それはいけない。
オマエラなんか医者にするくらいなら。その辺の街のパチンコ屋か何かで、ブラブラと遊んでいるオッサンでもかき集めた方が、まだましだと思う。
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また数年前、私立医科大入試の、女子差別が問題となった。(注)
女子学生の数を抑制すべく、合格点を不正に操作していたというので、世論に厳しく叩かれた。
そのことを知った、医系予備校の女子生徒が、こう言ったそうだ。
――私たちがこれまで受からなかったのは、だからなんだわ。……
いやいや、それも違うと思う。
どんなに公平な入試でも。万が一、逆に女子受験生が優遇されるような、世の中になったとしても。
キミタチだけは、永遠に合格させることはないと思う。
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それがきっと、医系予備校の講師たちの、本音なのだ。
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