アメリカ人に肩こりがいない意外な理由

 今や疫学は、伝染病ばかりではない。生活習慣病を含めて、人間を悩ますあらゆる疾患が研究対象となる。
 かつて日本で、「肩凝り」についての疫学調査が、なされたことがあった。どの地域が、どの年齢層が、どの職業が症状を訴えるか。その背景と思しきものは何か、データを集めたのである。
 参考比較として、アメリカでも同一の聞き取りがなされたが、その結果に研究者たちは驚倒した。
 日本人ではほぼ8割が、肩凝りの経験を報告していたが、何とアメリカでは2割強の数字だったのだ。

 肩凝りがストレスと関係があることは、知られている。
 頭が悪くておめでたい国民は、ストレスがたまらないから、肩凝りにもなりにくい。それも十分、筋が通っている。
 だがまさか、これほどまでに数字が開くとは! 同じホモサピエンスなのに アメリカ人がこれほど馬鹿で脳天気だとは、想像の域をはるかに超えていたのである。

 もちろんこのデータには、トリックがあった。大差の原因は国民性というよりも、実は語学的な問題だったのだ。
 種明かしは、こうである。
 当然のことながら、アメリカでの調査は英語で行われた。その際に「肩凝り」は、和英辞典の教え通りに、”stiff shoulder” と訳されていた。

 ここで一つ問題が生じる。英語の shoulder は、日本語の「肩」とは、微妙に部位が違う。
 私たちが「肩」と言うときには、首筋の付け根から、もう少し降りたあたりまでをイメージしているのではないか。ちょうどお灸をすえるとき、もぐさを乗せるところである。
 英語の shoulder の場合は、もっと外の方に比重がある。どちらかというと、肩甲骨を思い描く。
 アメフトとかで付ける、ショルダーパットというやつがあるだろう。あれを当てるあたりだ。
 そんなところが凝るやつは、ふつうそんなにおらんだろ、というわけだ。

 ちょっとした落とし穴だろう。そのことに気づいた研究者たちは、肩凝りを “stiff neck and shoulder” と訳し直して、再調査を行った。
 結果は2割強ではなく、5割強の数字に変わった。日本人は8割程度だったから、だいたい3割引きくらいだ。
 アメリカ人は頭が悪くおめでたいが、その度合いはおおむねこの3割分くらいだ――ということで、全員が妙に納得して終わったそうだ(笑)

 以上、英語おもしろ雑学である。

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