種付けのことをすっかり忘れていたハルウララ 

 (話は前回から続く)

 ハルウララは負けても負けても、一生懸命に走っている?
 そんなのは人間が勝ってに作り上げた、浪花節のフィクションだ。

 クズ馬同士の争いの未勝利戦で、一生負け続けるってことは、やる気がまったくないってことだ。
 一生懸命走っている、ふりだけはする。
 そうして外面そとづらだけは繕っておいて、実はチンタラと楽をして、手抜きで走っている。

 表と裏を使い分けて、適当にその場を流しておけば、とりあえず今日明日のおまんまにはありつける。
 無理をして頑張ってレースに勝ったって、賞金がもらえるのは人間だけだ。馬に特別ご馳走が出るわけじゃない、と知っているのだ。……

     *

<ハルウララとシンボリルドルフの、当然のことながら架空の会話>

ウララ  「何をそんなに、必死になって走ってるの? 辛いトレーニングに、耐えたりして?」
ルドルフ 「えっ?」
ウララ  「あんまり頑張りすぎるから、みんな疲れ切って、早死にしちゃったりするんじゃないの」「テキトーに走っておけばいいのよ。一生懸命なふりさえしておけば、人間なんて外面にだまされる。感動のレースとか言って、勝手に盛り上がってくれるのよ」

ルドルフ 「でも、勝ちたいんだよ。『栄光への架け橋』を、オレだって渡りたいんだよ」
ウララ  「そりゃ名誉なことかもしれないけど、あなた新聞読めんの? テレビでスポーツ番組見てるの? インタビュー受けたの? 関係ないでしょ」
ルドルフ 「そりゃあ、そうだけど……」

ウララ  「優勝なんかしたって、いい思いができるのは、賞金もらった人間だけよ」
ルドルフ 「えっ?」
ウララ  「勝ち馬に、何かご褒美出るの? 『さらなる高みを目指す』とか言われて、これまでよりもっと辛いトレーニングが、始まるだけよ」「あーた、そんなに勝ちまくって、何かいいことあったの?」

     *

ルドルフ 「でも、種付けができるよ」
ウララ  「えっ?」
ルドルフ 「競馬は血統のスポーツだ、って知っているよね」「1%の良馬だけが、子孫を残すことができる。残りの99%の駄馬は、種付けをさせてくれない」
ウララ  「まあ、そうですけど」
ルドルフ 「あいつらなんて、一生童貞のまま終わる。馬だから、センズリもこけない」
ウララ  「あらまあ」

ルドルフ 「オレなんか競馬の成績がよかったから、やりたい放題だぞ」「3か月のシーズンで、200回。だいたい一日三回できるぞ。」
ウララ  「えっ?」
ルドルフ 「しかも相手は、同じ女じゃあない。とっかえひっかえ、違う女とできる」「まあ、一回一分の、早漏だけど(汗)」
ウララ  「あらまあ」

     *

ルドルフ 「馬にはご褒美がないとか言ってるけど、種付けが最高のご褒美なんだ。それだけが楽しみで、走っているんだ」
ウララ  「えっ?」
ルドルフ 「名馬とか言われる馬たちは、みんな種付けがしたくて、あんなに頑張っているんだ」
ウララ  「あらまあ」

ルドルフ 「だいたいおめーは、食い物のことしか考えてないだろ。楽して飼い葉にありつくことしか?」「馬にはもっと他の、種付けっていう楽しみがあるんだよ」
ウララ  「まあアタシは女ですけど。牝馬ですけど」
ルドルフ 「メスだって同じだよ」「メスの繁殖は一年一回だから、引く手あまたの売り手市場だ。でもそれでも、あんまり成績の悪い牝馬は、オトコにありつけないよ」
ウララ  「ガーン。あっちゃー」

     *

ウララ  「アタシにも一回だけ、繁殖の話はあったのよ」
ルドルフ 「えっ?」 
ウララ  「でも直前になって、なぜか話が流れてしまったわ」「あれってアタシの競馬の、成績が悪かったからなのね。」「駄馬だと思われたからなのね。まあ実際、駄馬ですけど」
ルドルフ 「まーそーだろ」

ウララ 「成績のせいで、このまま種付けしてもらえずに、一生終わるのね」「顔はそこそこ、美人な方なのに」
ルドルフ 「そーでもねーよ」

ウララ  「チンタラ楽することばかり考えていた、報いなのね」「このままオトコを知らずに、終わるのね。せっかくの『馬並み』も、味わうことができずに」
ルドルフ 「そうだよ。ざまーみろ」

ウララ  「こんなことなら、もっとマジメに走っておくんだった」「種付けのことなんて、ちっとも考えてなかった。アイドルホースとか言われて、ついいい気になってたわ――」
ルドルフ 「いまさら後悔しても、むだだよ」「気が付くのが遅かったな、バアさんwww」

(注)
シンボリルドルフ(1981~2011)華々しい戦績を残した現役を引退後、種馬としてさんざんやりまくった挙げ句、2年前に惜しくも死没。
ハルウララ(1996~存命)2023年現在、27歳。人間で言えば82歳くらいの高齢である。

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