<祝甲子園優勝>慶応ボーイに女をあてがう

 慶応大学と言えば、かなりの数の学生が、附属からの内部進学である。
 学部によって差が大きいが、経済学部だと4割を超える。
 外部受験者の方がもちろん数は多いが、全国様々な高校から少しずつ寄せ集まって、結果として多数派を形成しているだけだ。
 出身高校を人数順に並べれば、複数の慶応附属校が、上位を独占するのは言うまでもない。

 そのうえ内部進学は通例浪人はしないから、彼らは高校の3年間、ずっと同級生同士だった。附属中学出身なら通算6年間。幼稚舎出身なら12年間同級なのである。
  (注:慶応では小学校のことを「幼稚舎」と称する。幼稚園のことではない)
 その団結力たるや、もちろん外部組の比ではない。

 大学入学の時点で、すでに3~12年慶応ボーイ(ガール)をやってきた。自分たちこそ主流だ、という自負がある。
 大きな顔をする。大手を振って歩く。スクールカーストの上位を占めるのは、当然彼らということになる。
 そうでない新入りたちは、ひたすら彼らの毒に当てられながら、ごく控えめな大学生活のスタートを切ることになるのだ。

     *

 外部受験者なら、苦労して勉強して合格する。
 内部進学の場合、皆無とは言わないまでも、さほど厳しい学習は強いられない。

 勉強だけならまだいい。問題はお金の方だ。こちらでも彼らは、めっぽう苦労知らずだ。
 ほとんどは上級国民の子女ばかり。幼稚舎に至っては、父兄にはセレブがずらりと居並ぶ。有名芸能人などが、こぞって子供を幼稚舎に通わせる。

 高校生の時点で、ひと月の小遣いが50万円、なんていうヤツもいた。
 彼らの遊びは、貧乏人の子供たちとは違う。
 具体例を挙げろと言われても、労務者階級出身の自分には、想像もつかない(泣)
 昔の大人なら「金持ちの道楽」と呼んだような世界に、若くして親しんでいるらしい。

 金離れがよく、高級車を乗り回していれば、女なんていくらでも寄ってくる。
 昔ある、ただ勉強ができるだけの、垢ぬけない東大生がいた。何でも慶応ボーイに彼女を取られて、泣きべそをかいたらしい(笑)

     *  

 苦労知らずのぼんぼん。お嬢ちゃま。おめでたい、軽薄な遊び人。――
 もちろん自分に、実情を知るすべはない。だが少なくともそれが、諸人もろびとが慶応ボーイに抱いているイメージだ。

 6年ほど前、『愚行録』というタイトルの映画があった。(注
 複雑怪奇な筋書きだが、ある大学で繰り広げられる日常が、物語の柱の一つになっていた。
 架空の学校名でも、慶応がモデルであることは一目でわかった。

 華やかで、自信に満ちた内部進学生と。そんな内部生をただうらやむ、外部受験組の地味で、卑屈な世界。
 外部組の夏原友季恵は、何とかあこがれの内部生の仲間に食い入ろうと、懸命にふるまっていた。
 その挙げ句に友人の田中光子 (満島ひかり)を、チャラい附属組の男たちに、次々と紹介していく。ナンパな連中だから、当然一夜限りの関係を持つ。
 何のことはない。友季恵は彼らの歓心を買うために、適当な「女をあてがう」、役目を引き受けたのだ。
 光子はそのための、道具に使われた。いけにえとして、男たちに差し出したわけだ。

――と、そんな場面があったように記憶している。
 もちろん、映画の中の話ではある。だがしかし、これは実話なのではないか、少なくとも実際の出来事をヒントにしているにちがいない、と思わせる迫真性があった。

     *

 今回の夏の甲子園で、慶応高校が優勝を収めた。
 朝日新聞やNHKだけでなく、マスコミがこぞって慶応の教育を礼賛している。
 自由と自主性を重んじる、新しい時代の野球が、坊主頭の軍団に勝利したと。

 もろ手を挙げて賞賛する彼らから見ると、自分の投稿はごろつきが、管を巻いているようにしか聞こえない。
 変な言いがかりを、つけるもんじゃない。
 たとえそれが真実の一端だとしても、こういうおめでたい時期に、むやみに裏の顔を晒したりするもんじゃない、と。

 裏の顔を晒す? たがそれもまた、ずいぶん的外れな非難である。
 自分の指摘が、本当に当たっているかどうかは知らない。だが世間の大多数の人間は、同じように考えてきた。
 少なくとも自分の世代の男たちは、慶応とはそういうものだ、と実感してきたのだ。
 苦労知らずのぼんぼん。おめでたい、軽薄な遊び人。――そしてもしそれが、多数派の抱く心象だとしたら、こちらの方こそ「表の顔」なわけだ。

     *

 だが今回の野球の一件で、慶応ボーイの思わぬ一面を知らされた。
 さわやかで、明るく前向きな、誰からも愛される高校球児――
 もちろん例によって、すべてが過分に、美談に仕立てられている。いくらなんでも、持ち上げすぎだ。
 だが少なくとも、甲子園で優勝したのは事実なのだから、一概にすべてを否定し去ることはできない。

 昨日の今日まで、チャラチャラのバカ息子と思っていたあいつらの、それこそ「裏の顔」だった。
 今ごろは満島ひかりをおもちゃにしているはずの内部生が(笑)、なぜだか野球中継の画面の中で、深紅の優勝旗を授与されている。
 そんなありうべからざる不条理を見せつけられて、テレビの前で呆然自失していたのは、むしろ自分たちの方なのだ(笑)――

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