「河童」伝説は、ある遺伝子疾患の…

「河童」の由来は何か?

 さまざまな異説があるが、かつて自分の知人が、とんでもない暴論を唱えていた。
 いわく、ある種の遺伝子疾患が、この伝説の生き物の誕生にかかわっていると。

 さすがにはばかりがあるので名前は伏せるが、けっして珍しい病気ではない。千人に一人は見られるという、誰もが知るような先天性疾患である。

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 知人に言わせると、貧しかった過去の日本社会では、頻繁に「口減らし」が行われた。
「姥捨て」などがその代表であるが、障害児もまたその対象となりえた。
 この疾患を持って生まれた子供たちも、養えないと見るや、しばしば河原に打ち捨てられた。

 本来ならそのまま餓死してしまうところだが、川辺には同様な障碍者の、コミュニティのようなものが出来上がっていた。
 彼らは自然の中で、何とか食つなぐすべを知っていたから、捨て子を我が子として育てた。
 というのも、彼らの多くは生殖能力にも欠損があり、自前の子供をもうけることはできなかったからである。

 彼ら・・はもちろん、世間から身を隠して暮らしていた。だが偶然に、鉢合わせすることもある。
 無邪気な子供の場合であれば、村人にいたずらを、仕掛けてくることもあっただろう。
 そんなとき人々は、「河童が出た!」と叫んだわけだ。――

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――そう言って知人は、二枚の画像を見せた。
 一枚はしばしば描かれるような、河童の絵姿である。もう一方は、この疾患を持った児童の写真である。
「ほら、そっくりだろう」

 言われてみれば、確かにとても似て見える。
 ここでも伏字になるが、○○といい、○○といい、……さまざまな顔の特徴が共通である。

 片方が片方の由来になったとしても、けっして不思議ではない気がしてくる。

     *

 いやちょっと待てよ。だまされてはいけない。
 これは詐欺師にありがちな、手口なのかもしれない。

 河童の絵なんて、その辺にいくらでもころがっている。障害児の写真だって、これもまた無数にある。
 その中でもっとも似ている二つを、選び出して組み合わせ、錯覚を誘っているだけかもわからない。

 そもそも知人は民俗の研究者でも、歴史家でもない。根拠となる文献を示しているわけでもない。
 よくよく考えてみれば、その主張もまた矛盾だらけだ。
 そんなコミュニティがあるとしたら、たまさかに目撃されるだけではすむまい。
 村人さえ食うや食わずの時代に、吹きっさらしの河原で、身体壮健とは言えない彼らが生き延びるとも思えない。……

     *
 
 こうしてもっともらしい、証拠もどきを持ち出してきて、人心を惑わす。
 根も葉もない風説で、いわれなき差別と偏見を助長する。
 
 洒落だとしても、不謹慎ではすまされない。
 悪意を伴えば、それこそ社会を混乱に陥れかねない。危険なデマや陰謀論とよばれるものも、きっと初めはこの手の、他愛のない嘘から始まるのだ。

 荒唐無稽な謬説には、常に警戒が必要だ。いつでも眉に唾をつけて、疑ってかからなくてはならない。
 実際自分もまた、この似非えせ学者の語り手を、デタラメを言うなとどやしつけた。
 それ以来縁を切って、その忌まわしい顔を、もはやもう二度と見ることはない。――

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