たとえば指名ランキングNo.1の、売れっ子がいるとする。
入ったことはないが、さぞかし可愛いんだろう。
なかなか予約が取れないと聞くが、ためしに電話してみよう。
すると、何という幸運だろう。
あっさり一回の電話で、予約ができた。
当日胸を高鳴らせて、期待で胸をふくらませながら、片道1時間かけて店に出かける。
お金を払って、いそいそと案内を待っていると、突然店員が現れて申し訳なさそうに言う。
「○○ちゃん、急に体調不良になりまして、早退してしまいました」
そして2枚の写真を見せる。
「今ご案内できるのは、この2人です。こちらの子でいかかでしょうか」
何しろ片道1時間かけて、店まで来た。
つい直前まで、アソコをおっ立てながら、案内を待っていた。
そんな状態でそのまま何もしないで帰るなんて、よほど人間の修養ができていないかぎり、可能な芸当ではない。
そのうえ、見せられた写真の女の子も、けっこう可愛く見える。
しかたがない。今日のところはこの子でいいです、と2枚の写真のうちの「エリちゃん」を選ぶ。
だがいざご案内となると、写真とは似ても似つかない、ご面相の女の子が現れる。
「初めまして。エリです。よろしくね」
*
何という幸運だろう、と思ったはずなのに、何という不運だろう!
――そう嘆いているとしたら、その客は世間というものを、知らなすぎる。
運も何もない。すべては初めから、仕組まれた詐欺なのである。
そもそもNo.1の売れっ子は、もとから今日は出勤していない。
あるいは出勤していたとしても、もうとっくに常連さんで、予約は満杯である。
本来なら予約が入れられないところに、予約が取れたと偽って、客を店までおびき出しているのだ。
そしてそのとき「お茶を引いて」いた――つまり客がつかずにぶらぶらしていた、たいていは不細工な女の子たちを、都合よくあてがったわけだ。
こうした詐欺のテクニックを、業界用語で「振り替え」と呼ぶ。
客を本来の目当ての子から、そうではないお茶っ引きの子の方に「振り替え」ることに、まんまと成功したわけだ。
*
帰るに帰れない、男心につけ込んで。スケベ心を、手玉に取って。
ずいぶん卑怯なやり方だ、と思うだろう。
もちろんそれはその通りだが、これでも昔に比べればましになった。
今は心理的に、帰るに帰れない。ただそれだけのことだ。
だが昔は物理的に、 帰るに帰れなかった。帰さなかった。
「今ご案内できるのは、この2人です」
と言いながら、おっかない顔をした店員が、数人で客を囲んでしまう。
口にこそ出さないが、
「店にまで入っておきながら、このまま帰れると思うなよ」
というメッセージが、確実に伝わってきた。
とても返金してくれ、などと言い出せる雰囲気ではない。命とお金とどちらが大事だ、という究極の二者択一を迫られたものだ(泣)
それに比べれば、今はずっとソフトになった。
あくまでも知能犯であって、粗暴犯ではない。
金は取られても、命を取られる心配はない。ただ地団駄を踏む。歯がみをするだけだ。
そう思えば、やはりこんなところでも、時代は進歩している。
人類というものはいつでも着実に、しっかり一歩一歩、その進化をとげているんだねえ(笑)――
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