最近はやりの言説がこれだ。
「財政の穴埋めに、増税をするな。むしろ減税をしろ。
お金が足りないなら、どんどんお札を刷ればいいじゃあないか」
国債を発行しろ、というのもあるが同じことだ。大量の国債はもはや民間では消化できず、日銀がお札を刷って買い取るしかないからだ。
参政党を筆頭に、多くの野党がこれを唱える。与党でも高市早苗あたりがワメいている。
そんな打ち出の小槌があるのに、どうして使わないんだ。代わりに税金を取るとはけしからん――と下級国民も同調して、財務省解体のデモをする。
この投稿では、そういう連中を総称して「ヤツら」と呼ぶことにしよう。
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ヤツらの主張は、けっして新しいものではない。
少なくともアベノミクス以来、政府・日銀はお札を刷りまくってバラまいてきた。何とトータルで国債の52%まで、日銀が買い取りを進めたのだ。
その結果何が起きたか? 昨今の狂乱物価である。
通貨の流通量が増えれば増えるほど、物価が上がる。これが経済学の基本常識である。(後述の補説参照)
お札を刷りまくってバラまいた結果、法則通りにインフレが起きたわけだ。
毎年3%の物価高で、国民の暮らしは苦しくなった。
それでもまだ、なんとか暮らしている。――だがわれわれは、歴史から学ばなければならない。
先の大戦で、わが国は戦費調達のために国債を乱発した。その結果、敗戦後に年率59%のインフレに見舞われた。
第一次大戦後のドイツに至っては、ハイパーインフレが起きた。卵の値段が3年で何と1兆倍になった。薪を買うより安上がりだからと、直接お札をストーブにくべて暖を取った。……
苦しくなったどころではない。国民経済は完全に破綻したのである。
そして私たちの直面するこの物価高も、ひょっとしたら同じような悲劇の前触れかもしれない。
今まさに危惧されているのは、そういうことなのだ。
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政府はいくら借金を重ねても、お札を刷ればいいだけだから、けっして破綻することはない――ヤツら信奉するこの理論は「MMT」と呼ばれる。(注)
けっして経済学の主流ではない。そんな極論を主張をする学者も、一部にはいる。その程度の、あくまでも異端学説だ。
だが実はこのMMT理論にも、本当は大切な「但し書き」がある。
政府はいくらでもお札を刷っていい。「但し、その結果インフレが起きなければ」――つまりは国債で借金を重ねてもいいが、インフレの手前でちゃんと寸止めをしろ。
そうしなければ政府は破綻しなくても、国民生活が破綻する、と警鐘を鳴らしているのだ。
ところがヤツらときたら、この但し書きには目をふたいでしまう。自分たちに都合のよい部分だけを、勝手に引用しているわけだ。
実はわれらが日銀も、つい数年前の黒田総裁時代までは、実質上このMMTを実践していた。日本中に金をバラまいていた。
だが悪性インフレの兆候が見え始め、さすがにもうヤバいと、路線変更を迫られたのだ。
引退した黒田総裁の後釜が、なかなか決まらなかったのはご存じだろう。後任候補が次々と辞退したからだ。
日本経済の破綻を、誰よりもわかっている連中だ。その責任を取らされてはたまらんと、みんなビビッてしまったわけだ。
そんな中、現総裁の植田和男だけが、勇敢にも火中の栗を拾った。国債買い入れもやめて、むずかしいかじ取りを、今のところなんとかこなしてくれている。
そんな植田たちの懸命の施策に、何も知らない低能どもが、しきりにイチャモンをつけているわけだ。
(次回に続く)
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