(話は前回から続く)
そんなふうに、馬の使われ方(ローテーション)を見れば、いろいろなことがわかってくる。
目の前のレースでの、「勝負度合い」だけではない。
その馬の能力や適性を、陣営(関係者)がどう評価しているのか。どんな路線と戦略で、馬とかかわっているのか。――
たとえばかつて、ネオユニヴァースという馬がいた。
全成績はこれである。
皐月賞とダービーのクラシック2冠を制して、ちまたでは否応なく、3冠馬誕生の期待が高まった。
3冠目とはもちろん、秋の菊花賞である。
通例この手の有力馬は、ダービーが終わった後は、暑い夏を休養に当てて秋に備える。
ましてや菊で大本命になるはずのネオユニヴァースは、当然その路線で行くと思われた。
ところが意外や意外、ネオユニヴァースはダービーの4週間後の、宝塚記念を次走に選択したのだ。
実力馬の路線としては、それまでもその後も、あまり聞いたことのない珍しいケースだった。
この戦略は、いかようにも解釈できる。
一部のファンは、実に楽観的に考えた。宝塚記念という、古馬に交じったG1でも、ダービーの余力で十分戦える。そんな自信の表れだ、と。
だが自分は、ここでもすぐにピンときた。この馬は、距離に不安があるのだと。
秋の菊花賞は、3000メートルの長丁場で戦われる。皐月賞(2000メートル)ダービー(2400メートル)を制した実力馬でも、スタミナが不足していれば、足元をすくわれることも多い。
菊花賞を勝てる自信がないから、そこだけに照準を合わせるのではない。宝塚記念(2200メートル)に出走して、少しでも賞金を稼いでおこうというわけだ。
あるいは、距離だけではないかもしれない。馬に意外と成長力が感じられなくて、秋を待たずに今のうちに使っておこう、と考えたかもしれない。
いずれにしても、結論は同じことだ。
今度の宝塚記念の、勝ち負けはわからない(実際の結果は4着)。
だがもし、秋に菊花賞に出てきたら、間違いなく「危険な人気馬」になるだろう。――
自分の直感は、ここでも的中した。
ネオユニヴァースは、3冠目の菊花賞を、回避することなく出走した。3冠期待のムードを盛り上げたい、JRAの意向もあったかもしれない。
宝塚記念4着。秋初戦の神戸新聞杯3着の成績にもかかわらず、懲りないファンは同馬を一番人気に推した。
結果は3着。2着から外れたことで、馬単万馬券をもたらしてくれた。
またしても馬券上手は、おいしい思いをしたのである(笑)
*
そんな一流の、名馬の場合だけではない。
どんな普通の馬にも――名前ももう忘れてしまったような、二流三流の馬の場合でも。この教訓は当てはまる。
もし馬の将来性を買っていれば、陣営は「大きく育て」ようとする。
春のクラシックだけに目標を定めて。場合によっては古馬になった、後のことを考えて。まだ2歳の早い時期から、やたらとレースを使ったりしない。
そのころは、じっくりトレーニングにはげみ、つまらないレースで使い減りするような事態は避ける。
その逆に、あまり期待していない馬なら、早いうちにどんどん使っていく。
2歳のうちから、目いっぱいに仕上げて、とりあえず目の前の成果を取りに行く。
まだ本当に強い馬が登場しない今のうちに、稼げるだけ稼いでおかないと、採算が取れないからだ。
そういうタイプの馬は、勝ち星だけは重ねているので、クラシックで人気になったりすることもある。
そういう「お客さん」の馬券を、けっして買ってはいけない。
だいたい大物の馬なら、桜花賞まで2戦か3戦だろう。それ以上使われているような馬は、とりわけ重賞ですらないようなレースで勝ってきたような馬は、ほとんどが駄馬である。
昔「札幌2歳(旧3歳)ステークス」が、まだ1200メートルで行われていたころ。
それこそ名前も思い出せないが、ある優勝馬の騎手インタビューで。
クラシックに向けて、この馬の将来性はどうですか、と問われた騎手がこう答えた。
――それを言っちゃあ、かわいそうですよ。……
社交辞令を述べるのも忘れて、本音がポロリと出てしまった(笑)
こんな駄馬は、勝てるのは今のうちだけで、今後の期待ができるような素質なんて、かけらほどもありはしない。
そんなことは関係者なら、もうみんな重々、承知していたのだ。――
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