「ディラン効果」とは――げにおそろしき「染脳」の手口

 きっとこういう経験を、したことがあるだろう。
 聞いたことのある音楽が、いつまでも頭の中に鳴り響いている。
 意図して思い出しているわけではない。何をしていても、勝手にBGMみたいに、曲がかかるのだ。

 好きな音楽なら、それもかまわない。まあ無音の鼻歌のようなもので、なんとも心地よい状態になるだろう。
 だがたいていの場合は、とても趣味に合わない音楽だ。ときには吐き気をもよおすほど嫌いなメロディーが、頭から離れなくなる。執拗にリピート再生される。
 完全な騒音で、いわゆる「耳につく」という状態になる。

 この現象には、ちゃんと専門的な呼称があるらしい。イヤーワーム(ear worm= 頭の中に住む虫)だ。
 音響学みたいなものには自分は門外漢だが、何でも特定の音程パターンの曲に、起こりやすいらしい。
 あの例のボブデュランの『風に吹かれて』がその典型であることから、「ディラン効果」とも呼ばれるようだ。
 なんでも 統合失調症みたいな、精神的な問題を抱えている人間に多く見られる、という説もある。
 うーん、さもありなん(泣)

     *

 高級なクラシック音楽ならまだ様になるが、恥ずかしいほど俗悪な曲、人前ではとても歌えない歌でもこれが起こる。
 こういう音楽に冒されるようでは、脳みそのほうも作りが俗悪なのか、と悲観してしまう。

 かつて最も悩まされたのは、何と「ヨドバシカメラの歌」だ。
 例のメロディーは全国共通だが、歌詞は地方によって変えているらしい。現在の東京では、
  まあるい緑の山の手線♪
  まんなかとおるは中央線♪
  新宿西口駅前とアキバのヨドバシカメラ♪
 となっている。

 テレビCMや店内放送で流れていたものが、そのまま耳にこびりついてしまったのだ。
 そしておそらくそれは、音楽だけではない。そこにひそかに隠されたメッセージも、脳内に刷り込まれたにちがいない。
 ヨドバシカメラは安くて、いい品揃えの店だと、無意識のうちに思い込む。
 おめでたい曲調に乗せられて、ついホイホイと買い物をしてしまう。

     *

 何のことはない。洗脳である。
 「洗う」というよりは「染める」。脳みそがすっかり染色されてしまうのだから、「染脳」と書いた方がふさわしい。
 イヤーワーム を意図的に利用した戦略に、いいように操られているのだ 

 それもサブリミナル効果(注)とかいうような、気の利いたものではない。もっとあけすけな、連呼型の手口である。
  悪魔の宗教にやられた、とかならまだ少しは恰好がつくが、ヨドバシカメラに洗脳されたとは情けない。

 そのへんの低能連中ならともかく、日本最高レベルの知性においてすら(笑)この有様なのだ。
 洗脳とは、げにおそろしいものである。――

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