思えばひどい時代であった。
1969年に、奥村チヨの『恋の奴隷』が発売された。51万枚のヒットとなった。
歌詞は以下である。(一番のみ 下線は筆者)
あなたと遭った その日から
恋の奴隷に なりました
あなたの膝に からみつく
小犬のように
だからいつも そばにおいてね
邪魔しないから
悪い時は どうぞぶってね
あなた好みの あなた好みの
女になりたい
何のことはない、DV推奨の歌である。そのうえ、女の側からそれを望んでいる、という設定になっている。
今なら袋叩きになる内容だが、当時は誰も問題になんかしなかった。抗議の声一つ上がらなかった。
*
そもそも性差別なんて考えは、まるっきりなかった。
上司が女性社員のおしりをさわるのは、スキンシップであり、コミュニケーションの一貫だった。
ユーモアを解する、陽気な上司にめぐまれた、明るく楽しい職場とされた。
女の子の方も、「やめてくださいよ。しゃちょー。もー」と笑顔で返すのが、ふつうの挨拶だったのだ。
人権なんて感覚は、これっぽっちもありはしない。
『座頭市』では、「このど盲め」が定番のセリフであり、毎回のように娘が手籠めにされていた。
視覚障碍者への配慮がない。女性の人権を蹂躙している。
今でもときおり再放送が流れるが、必ず「オリジナルを尊重して、当時のまま放送します」のテロップがつく。
そうでもしなければ、収拾のつかないことになりかねない。
『帰って来たヨッパライ』(注)というコミックソングが、空前の大ヒットとなった。(歌詞はこちら)
売り上げは、300万枚を越えたという。
酔っ払い運転で事故を起こして、死亡した運転手が、天国に行く。天国の美女に囲まれた宴会で、また酒をくらってどんちゃん騒ぎをする――というおふざけソングなのだが、当時はこれがおもしろいともてはやされた。
今の時代だったら、そうはいかない。
飲酒運転が、いかにおそろしい犯罪であるか、まったく自覚していない。交通事故の犠牲者の気持ちを、平気で逆なでしている。
天国行くのかよ、地獄行きじゃないのかよ、とツッコまれるくらいではすまない。間違えなく、発売禁止に追い込まれる。――
*
あのころは、そんなのばっかりだった。
ツッコミを入れたらきりがない。今では全部、NGだ。
罪深い不謹慎が、大手を振って通用していた。
時代の担い手の一人としては、返す言葉もございません(泣)
それではこの年齢の人間が、みんな劣等なのかというと、たぶんそれもちょっと違う(笑)
だって今ではこの自分も、すべての若者たちと同じように、そんなことはけしからんと、心底思っているわけだから。
個人の品性の、問題ではないだろう。
この同じ自分という人間が、当時は何も疑問に思わなかった。今ではトンデモだと思う。
ひでーもんだと思う。
だとしたらやはり、時代そのものが学習したのだ。開悟したのだ。
*
人類の精神は、時代とともに進化する。徳義心も磨かれていく。
たいていは弁証法という、世にも深遠な仕組みによって。
それが社会のあり方となって表れて、歴史を動かしていく。
なんだ、やっぱり昔ヘーゲルが、あのチンプンカンプンな文章で、説いた通りじゃないか。(注)
それに比べて自分の思い切り卑近な例示は、何ていつも読者思いで、わかりやすいんだろう!
どうせ皆さん程度の知能では、とてもヘーゲルは読みこなせないので、その代わりにこのブログをぜひ読んでね(笑)
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