日本をブチ壊して勲章もらった日銀総裁(2)

(話は前回から続く)

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 金利が低くなれば、お金は消費や設備投資に回されて、景気が上向くだろう。――そんな教科書に書かれた公式が、わが国の社会には当てはまらなかった。
 だとしたら、教科書が間違っているのか? 必ずしもそうは言えない。
 たとえば海の向こうのアメリカでは、すべては教科書通りに起こる。金利を下げれば、経済は活況となる。一体この違いは、どこから生まれたるのか?

 種明かしはこうだ。
 両者の反応を分けるものは、結局はそれぞれの国民の気分である。
 わが国では誰もが、未来は暗いと考える。少なくとも、そうなる可能性があると予測する。だからいつでも悲劇に備え、身構えていなくてはいけないのだ。シコシコと貯金をするしかない。
 だがアメリカ人には、そういうイメージはない。むしろ未来は明るいと感じているから、手元にお金があれば貯金なんかしない。あるだけ全部、パーっと使ってしまう。教科書通り、消費も投資も増えるから、景気が好転するのだ。

 もちろん根っからの、国民性の違いもある。アメリカ人は楽天的で、前向きだ。われわれはおおむね陰気で、保守的にふるまう。
 だがアメリカ人の楽観は、けっして根拠のないものではない。
 経済の状況を表わすはずの、株価を見てみればすぐわかる。 

 何と株価はこの30年で、10倍に跳ね上がっているのだ。こんな図を見せられたら、誰でも明るい気分になる。これからも株価は上がり続けるだろう。明るい未来が待ち受けているだろうと感じたとしても、あながちおめでたいとは言い切れないだろう。
 それに比べてわが国の体たらくは、ご存じの通りだ。1989年につけた高値を、つい昨年まで一度も上回ることなく、沈没し続けていたのだ。これでは未来に希望を抱けというほうが無理がある。

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 しばしば言われるように、景気の「気」は気分の「気」 である。
 国民の気分がお金の流れとなって表れ、それが景気のあり方を左右する。
 バラ色の未来の予感が、消費と投資を通して経済を上向かせ、株価を押し上げる。するとますます気分がよくなり、好況に沸き立つ。
 そんな永遠の好循環が、海の向こうのあの国で起きていることなのだ。

 そしてもちろん、その逆も真である。
 わが国の我々の頭上に、未来についての茫漠たる不安の雲が覆う。それが国民の行動を萎縮させ、経済を停滞させる。それがまた、気分を暗くする。
 思いは必ず、現実となって成就する(過去投稿参照)。そしてそれは楽観についてと同様に、悲観についてもそのまま当てはまるわけだ。

 悪循環を断ち切るのは、容易ではない。
 あの人たちなら何とかしてくれる、という政治への信頼がない。どうせ変りゃしないさ、という諦めが先に立つ。
 責任回避と先送りの結果、国の借金は1297兆円に達した。これが何より将来に影を落とす。御用学者に大丈夫と言われても、そんなこと誰も信じちゃいない。――

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 もちろん昨年末から、日本の株式は爆上げした。何だか「気」が変ったようにも見える。
 だとしたらこの2024年を境に、日本の経済もアメリカ型に転換したのか?
 もしそうであれば祝着至極だが、まだまだ喜ぶのは早急だろう。

 何しろ株を買ったのは、たいていは外国人投資家だ。おそらくは何らかの勘違いによって、彼らが日本株への見方を変えて、買いに回っただけなのだ。
 変ったのはあくまで、彼ら・・の気分だ。相変わらず実質賃金の低下に苦しむ、国民の気分は変らない。
 だから物価と株価は上がっても、実体経済は上向かない。

 そんな乖離に気づいた外国人投資家は、早晩株を売り始める。
 そうなれば万事がまた、振り出しに戻ってしまうかもしれない。――そう考えるのは、あながち杞憂とばかりは言い切れまい。……

参照過去投稿:
思いは具現する――株価における「法則性」の正体
世界は変えられる

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