高齢者が熱中症で亡くなるあまりにも意外な理由

 地球温暖化だかなんだか知らないが、これでもかというような酷暑が続く。
 熱中症で倒れる人も増える。

 若い人は昼間の日差しの中で、無理な運動をして救急車で搬送される。
 高齢者はそんな無茶はしないのに、夜寝ている間に、暑さにやられて亡くなるという。

 もちろん高齢者だから、体力がないこともある。
 だがそれ以上に、彼らは熱帯夜でもクーラーもつけず、そのうえ家中の戸を閉め切って寝ているというのだ。

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 それは一体なぜか?
 歳を取ると、暑さを感知する能力が衰えるという。
 本当は暑いのに、頭は暑いと思わないから対策をしない。それで体がやられてしまう。

 経済的な理由もある。
 そもそもつましい年金暮らしで、エアコンを買えない世帯もある。あったとしても電気代を節約するために、できるだけつけないようにしているのだ。

 戸締りをするのは、防犯のためだ。強盗にでも押し入られたら、老人の力では対抗できないから、鍵をかけずには眠れないという。

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 だがそればかりではない。
 彼らはきっと遠い時代の、過去の記憶に縛られている。エアコンは体に悪いと、いまでもずっと思い込んでいるのだ。

 若い人は笑うだろう。文明の利器に対応できない、時代遅れの迷信だ。まるで写真を撮られると魂を抜かれとる、というのと同じだ。
 だがあながち、そうとばかりは言い切れない。
 なぜって実際、50年前売り出されたばかりのエアコンは「体に悪かった」のだ。

 現在のエアコンならサーモスタットの機能があって、一定の温度より冷えすぎることはない。 
 だが当時まだ「クーラー」と呼ばれていたそれは、強・弱・止のつまみがあるくらいで、細かい温度調節がきかなかった。
 暑いからと「強」に設定して、そのまま寝込んでしまおうものなら、部屋はかぎりなく冷え続ける。
 寒さで目が覚めれば幸い、半裸のまま熟睡してしまえば間違いなく風邪を引いた。

 そればかりではない。
 冷風がずっと体を直撃すると、どんどん体温が奪われて、ついには心臓麻痺を起こすという。
 実際死亡事故も頻発していて、クーラーのつけっぱなしには注意しましょうと、マスコミもキャンペーンを張っていたものだ。

 もちろん現在の製品では、そのようなことはありえない。頭ではそれは重々承知していても、いったん刷り込まれたイメージは容易には拭えない。
 心の奥底で私たちの行動を支配して、エアコンをつけることが――とりわけつけっぱなしで寝ることが、どうしてもためらわれるのだ。

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 別の事例もある。
 たとえば自分たちの世代は、缶飲料をそのままぐい飲みするは苦手だ。
 ビールでも何でも、手元にグラスがあるなら、いったん注いでから飲む。

 理由は同じだ。
 50年前の缶の容器は、有毒な物質が含まれるとされていた。
 もちろん即死するような量ではないが、長年常飲すれば積もり積もって、健康被害が出ると。
 実際ミカンの缶詰のラベルには、開封後の食べ残しは必ず他の容器に移し替えろ、という警告文が書かれていた。

 もちろんこれもまた、現在の製品ではありえない。若い人はきっと笑うだろう。バカじゃねえの。非科学的で、頭が悪すぎると。
 だがしかし、そんなことはない。実はキミたちなんかより、ボクの方がはるかにIQは高い(笑)
 これほどまでに頭がよくても。頭ではわかっていても、過去の亡霊がつきまとう。
 常識はアップデートできても、無意識に巣くったイメージまでアップデートするのは、なかなかに難しい。
 人間のさがとは、きっとそういうものなのだ。――

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