風俗店に行くと、普通はまず写真を見せられて、そこから女の子を選ぶ。
たいていパネルの形で置いてあるので、これを「パネル写真」と呼ぶ。
遠い昭和の時代には、まだ写真の修正なんてできなかった。
ちょっと写りがよすぎるにしても、明らかに本人とわかる写真が並んでいた。
もちろんまったく別人の写真を見せる店もあった。どっかの雑誌に載っていた、芸能人の顔だったりする。
だがそんな店は、たちまち信用をなくして淘汰された。
もちろん今では、写真加工が当たり前だ。
本人度70%くらいの、盛りまくった写真がパネルに載る。
素顔は全然ぱっとしない女の子が、まるで魔法でも用いたかのように美人に写るので、これを「パネルマジック」、略して「パネマジ」と呼ぶ。
ネットのHPに載る写真も、たいていこのパネマジ写真である。
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だまそうとする店と、だまされまいとする客。
風俗通いなんて、今やこのパネマジとの戦いである。
常連になれば、この店のパネマジ度は何割くらい、写真がこのくらいならおおむね実物はこのくらい、と見当がつく。
本物の女の子の顔が、だいたい目に浮かぶ。
それではだましたことにならないので、店もさらなる戦術に打って出る。
たとえば風俗店のHPは、たいてい常連様だけが入れる、パスワード付きの会員専用ページを設けている。
そこに一般用ページとは別の、女の子のスナップ写真を載せていたりする。会員様にだけは素顔をお見せする、という体なのだ。
スタジオ撮影の美々しい作りとは違う。店内やら、店の前の通りやらで、気楽に撮った写真が並ぶ。
それを見た会員は、ふーん素顔の女の子はこんななんだ、と思い込む。
そこが付け目なのだ。
今となってはスナップ写真だって、いくらでも修正は可能である。
そのうえ任意の画像を、インスタント写真(ポラロイド、チェキ)風に、加工するソフトもあるらしいから食わせ物なのだ。(注)
スナップ写真は、人間の日常をありのままに切り取るもの。そんな思い込みを、見事に利用して、客をだましにかかるわけだ。
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ネットのHPに上がる女の子の写真には、薄いボカシをかけているものもある。
こちらは加工というよりも、本人を特定されないための配慮である。
たとえ特定されたとしても、違うと白を切れる程度にまで、あいまいにしておくわけだ。
だがこれもまた、遊び慣れた常連には役に立たない。
靄の向こうの鮮明な素顔を、一種の神通力で――透視眼によって見通してしまう。
もちろん実際は見るというより、想像力で足りない情報を補って、脳裏に浮かべているわけだ。
靄の向こうの鮮明な素顔――だがしかし、ここにもまた危険な思い込みがある。
ボカシの向こうには素顔がある。隠ぺいの陰には真実があるはずだ、と勝手に決めつけているわけだ。
もちろん一般の、外の世界では、それで構わない。そんな前提が、すべての論理的思考の出発点となる。
だがしかし詐欺師たちは、そんな常識さえ、逆手に取ろうとするのだ。
すなわちまず、女の子のありのままの素顔の写真を、相当な美形に加工しておく。
そうしてできた「パネマジ」の写真に、ボカシをかけるのだ。
エロおやじたちの神通力は、ボカシを見通すことはできる。
パネマジの原本になる素顔を、復元することもできる。
だがその両方を同時にやられてしまうと。パネマジの写真にボカシをかけられてしまうと、もうお手上げだ。
二重に掛けられた鍵を、外すことはできない。というよりも、まさかそこまでやってくるとは思わないので、二重に外すという発想そのものが、浮かばないのだ。
そんな人間の安直な思い込みに、風俗店の詐欺師たちは、ものの見事につけ込んでくるわけだ。
どうだい? 頭いいだろう? 思わず尊敬しちゃうだろう(笑)
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風俗店のHPにはたいてい、女の子が各自の写メ日記(注)を載せるコーナーがある。
ここでもまた、客はしばしば誤った思い込みを抱く。
まずは「日記」という言葉に暗示を受けて、そこにあるのは文章も写真も、正直なものにちがいないと感じてしまう。お店はともかく女の子本人が、客を欺くことなどよもやあるまいと。
あるいはこの手の写真は、思い切り「盛る」ことはあっても、「贋造」レベルの加工はできないと勝手に勘違いする。
だがしかし――
かつてある男が、写メ日記を当てにして、女の子を指名した。
もちろん、けっこう遊び慣れた客なので、そっくりそのまま信じたりはしない。
三割か、四割引きくらいで見ておこう。でも写真が絶世の美女だったら、最悪「中の上」くらいの女が出てくることはあっても、それ以下はない。――というのが、風俗遊びの常識だった。
少なくとも、その日までは。
だが常識はひっくり返った。コペルニクス的転回によって。
ついでに客も、ひっくり返った。
「ひとみです」と名乗りながら現れたのは、どうみても女相撲の力士だった。
どんなにハイテクを用いて加工をほどこしたとしても、これがあれになることはない。――
客の気持ちを察して、女が釈明した。
「写メ日記ですかあ? 身バレ(=身元がバレること)が怖いから、別人の写真を載せてます」
と、しゃあしゃあと言う。
*
身バレが怖いなら、写メ日記をやるな。日記だけ書いて、写真は載せるな。
載せるなら、顔だけ隠せばいいだろう。
百歩譲って、よしんば別人の写真を借りるとしても。
自分と同レベルの、女のものにしろよ。何で女力士が、絶世の美女になりすましてんだ。
どうみても、身バレ防止が動機じゃないだろ。
殺してやりたい、とつくづく思う(笑)
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