女たちは車に道を譲る

 地元の駅の構外に出ると、すぐ横断歩道がある。
 駅前の大通りを渡るためである。一方通行の道で、信号はない。
 その横断歩道のたもとに、いつまでも女性が佇んでいる。

 一体何をしているのか?
 待っているのである。通りから車が、すっかりいなくなるのを待っている。
 自分が渡る前に、何台もの車両をやり過ごしている。

 自分たち男性は、そんなことはしない。車の方を止めさせる。
 オレ様のお通りだ、とばかりにふんぞり返って大手を振って。向かってくる車を睨みつけて、平伏させて渡る。

     *

 女性たちのあの振る舞いは、一体何を表すのか?
 彼らは謙虚なのか。温柔なのか。
 他人様ひとさまを押しのけて渡ることなんか、とっても考えられない。どうぞ先にお通りください、といつも一歩下がって控えているのか。
 謙譲の美徳なのか。ゆずり合いの精神なのか。

 あるいはまた、彼らは臆病なのか。腰抜けなのか。
 車の往来に無理に割って入って、万が一ケガでもしたらと、ただただビビッているだけのか。

 いずれにしても女性がとっても、平和な生き物であることだけは間違いない。
 何しろ子供を産み、守り育てる性だもの、安全が一番なのだ。
 戦ってまで勝ち取ろうなんていう魂胆は、毛頭ない。世界が女性だけだったら、戦争なんてたちまちなくなってしまうにちがいない。――
 

     *

 本当に女性って何てやさしく、すてきな生き物だろう。――

 だがしかし。 
 だがしかし、世の中には交通規則というものがある。
 道路交通法38条第1項によれば、車の運転手は横断歩道の手前で減速し、一時停止する義務がある。そして歩行者の横断を妨げてはならない、とある。
 上記に違反した場合は、3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金、と罰則が定められている。

 報道によれば一時停止をしない車に、横断中の歩行者がはねられる事故が多発している。
 都道府県別のドライバーたちの、一時停止遵守率も調査された。全国ワーストは新潟県だという。
 何というけしからん連中だ、と思うだろう。
 確かにそういう車もいる。歩行者を威嚇して蹴散らするように、オラオラで横断歩道を突っ切っていく不届き者だ。

 だが自分の見るところによれば、ほとんどのドライバーはそうではない。
 彼らはもちろん、交通規則を知っている。歩行者を渡らせる気持ちもある。
 だがそこにいるのは、あの例の、あまりにも謙虚すぎる女性たちだ。ただただ、すべての車が行き過ぎるのを、横断歩道のほとりで待ち続けている。

 もし車が彼女たちが渡るのを待ち、彼女たちが車が通るのを待ち続けていたとしたら?
 お互いに頑として譲り合い、ずっとにらみ合っていたとしたら。
 いつまでも埒が明かない。
 ただ時間が空しく過ぎ去っていくだけだ。そのうえ車の後ろには、そのまま進路をふさがれた車の列ができて、たちまち大渋滞が発生するだろう。

 だからドライバーはやむなく、車を発進する。歩行者を道路わきに置き去りにしたまま、横断歩道を突っ切るしかないのだ。
 そしてそんなことを何度か繰り返すうちに、いつしかそういうものだと思い込んで、一時停止自体もしなくなってしまう。

 つまりは横暴運転と言われるものの元凶は、本当は女たちの似非えせマナーにあった。
 彼らの過度の謙虚さが、違法行為を誘発し助長している。
 やさしくて、素晴らしいと思えていた彼女たちは。実は結局、社会のルールも知らない、無知で愚かな生き物だったわけだ(笑)

     *

 だがしかし、無知で愚かなのは女どもばかりではない。たとえば――

 上記は横断歩道の場合だが、実は自分は横断歩道のないところでも、平気で大通りを渡る。
 するとドライバーは舌打ちして、クラクションを鳴らす。通行人も、あんないけないことをして、とばかりに白い目で見る。そんな反応は、男女を問わない。
 だがしかし、それが間違っているのだ。 

 同じく道路交通法38条の、第2項にある。横断歩道のない場所であっても、歩行者が横断しようとしている時には、車両はその通行を妨げてはならない、と。
 つまりは横断歩道とは、あくまでより安全に・・・・・、道を渡るための配慮にすぎない。そこしか渡れないというような、禁止の性質を何ら持つものではないのだ。

 確かに学校では「横断歩道のないところを渡ってはいけません」と教える。だがそれは、まだ判断力の乏しい小学生の、身を守るための方便にすぎない。
 それをそのまま、大の大人の世界に当てはめるとしたら、たちまち無知で愚かな「嘘」となるのである。

    *

 あるいは赤信号の灯った交差点でも。左右を見渡して、視界のどこにも車の姿がなければ、そしてもちろん警官の姿がなければ(笑)自分は渡る。

 もちろんこちらは、道路交通法でも違反である。
 だがだとしたら今度の場合、無知で愚かなのは法律の方なのだ。
 車の影も形もないところで、信号の変わるのを待ち続けなくてはならないなんて、どうかしている。どう見ても間違っている。

 というよりも、本当は法律を作った連中も、これはセーフだとわかっているのだ。
 でもそんな例外ばかり作っていては、法律は機能しなくなる。だからやむをえず、四角四面で行っているだけだ。
 法律とはそういうものなのだ。融通が利かないから、立小便も賭けゴルフも違法にしてある。でもそのどちらも、本当は何の問題もない(笑)

     *

 考えてもみたまえ。

 車が発明されるよりもはるか昔から、人類はずっと地球に暮らしてきた。
 オレたち人間の方が、地球の主なのだ。

 それなのになぜ、車ごときに頭を下げて、道を譲らなければならないのか?
 人間の尊厳は、一体どうなってしまうんだ?
 まったくこのごろ、みんなどうかしてるぜ。どいつもこいつも(笑)

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